開幕ベルは華やかに
7月末発売、新潮文庫の新刊のうちの名作復刊シリーズとして、
有吉佐和子「開幕ベルは華やかに」(667円、税別)が復刊になった。
これは、聞きしに優る面白さ。
フィクションなので、帝劇を除けば、じっさいの興行会社名や人物名は使われないが、要するに、東宝らしき会社が帝劇で松竹だろう会社のトップ俳優ふたり(新派みたいな劇団の座長女優と、歌舞伎の大幹部)を起用して、川島芳子をモデルにした女主人公の新作舞台を上演することになっていたが、直前で大物脚本家が降板する。この後に起こる公演の顛末と、商業演劇の舞台裏の騒動が読みどころだ。
どれもじっさいにあっておかしくない、いやきっとこんなこともあるだろうと思わせるエピソードがこれでもかと繰り出され、文化勲章までがストーリーに盛り込まれる贅沢さだ。後半になって脅迫や殺人事件が絡んで来るのだが、それも、結局は、事件に影響されて展開する舞台の上の状況をつくるための設定、あるいは、芝居者の業をえがくための仕掛けに思える。
(およそ四半世紀前の作で、「鉄砲」とか「つっかけ」といった幕内用語が出て来るけれど、これ、いまでも使われる言葉なのかな??)