日本橋物語� 恋しぐれ (明治座)



3月28日(月)は、明治座で、「日本橋物語� 恋しぐれ」を観劇

 この日、千秋楽。

 11時半の開演。



女流作家 長谷川時雨(三田佳子)を主人公に、大正から昭和初期の作家たちを周囲に散りばめて、えがいた舞台。 長谷川時雨林芙美子(水谷八重子)は、実物の写真と見較べてもよく似た雰囲気をつくっていて、かたちからもそれっぽく見せる。



三上於菟吉役は、榎木孝明。時雨に求愛する一途さから、女道楽のやまない甘さ、病に倒れ不自由な身体になってのとぼけた味へと、幅を見せて、面白い。硬い二枚目が似合うひと、という印象を持っていたが、この方、芸域は広そう。



流行作家になった於菟吉の印税で創刊した「女人芸術」には女流作家たちが集まるが次第に左傾化し、廃刊。さらには林芙美子との対立が決定的に。

第三幕での、時雨と芙美子の対決は、そのまま、大女優ふたりの競演の醍醐味となって、緊張感いっぱい。



菊田一夫のフィルターを通してえがかれた「放浪記」よりも、この「恋しぐれ」での林芙美子のほうが、おそらくは作家としての実像に近いのではないか。 「歌日記」と題されていた芙美子の作品を「放浪記」と改題して「女人芸術」に載せたのは三上於菟吉だったなど、舞台の「放浪記」には出て来ない逸話も織り込まれる。



血栓に倒れた年下の夫 於菟吉を引きとるために、若い愛人と暮らす家へ乗り込んだときの時雨の演技は見どころで、夫婦で寄り添う終幕にかけ、主演女優の本領があった。



時雨を見守る六代目尾上菊五郎(菅野菜保之)に大きさがあり、(私は六代目菊五郎を見たことがないけれど)それらしい説得力。



第一幕の、時雨が営む料亭のセットは奥行きがあって珍しく、目を惹いた。風情が感じられた。



流行作家になり連載を何本も抱えつつも女道楽で家を空ける於菟吉の代わりに、時雨が筆をとっていたりと、当時の作家にありがちな代作問題をさりげなく提示して見せた脚本(ジェームス三木)が、なかなか効いている。



子役は、時雨の甥 仁(まさし)の子ども時代(成長すると、坂上忍)で、第一幕に出演。

花道から登場して、転換つなぎのカーテン前の芝居を担い、次の場に出演、退場も花道からなので、けっこういい役どころだ。

28日は、福谷亮弥くんが演じて、なんとも かわいい男の子ぶり。セリフは、口跡がもうひとつ…と思ったが、これだけかわいければ子役として充分に魅力的。

ダブルキャストのもうひとりは、(「初蕾」のこたちゃんこと)堀川裕生くんだから、この舞台は、いい子役をふたり揃えていたといえる。





この日、千秋楽とあって、出演者全員が揃ってのカーテンコールが行なわれ、三田佳子さんから千秋楽を迎えたお礼のあいさつがあった。

子役も、ちゃんとふたり登場し、いちばん下手端に 福谷亮弥くん、上手の端に 堀川裕生くんが並んだ。



 終演は、3時20分頃。