「放浪記」新旧比較


「放浪記」

(林芙美子作品集より、菊田一夫 作、三木のり平 潤色、北村文典 演出)

10月14日(水)に、シアタークリエで、仲間由紀恵主演の初日を見たので、

 (出演の子役については、すでに少し書いた。→http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20151014/p1)

森光子さんの「放浪記」との新旧比較を試みてみましょう。

(私が「放浪記」を見はじめたときは、森光子さんはすでに80代になっていたので、比較といっても、あくまでも今世紀に入ってからの舞台と較べるということになりますが)


[上演時間]

今回のシアタークリエ公演の上演時間は、

『第一・二幕 50分、休憩 15分、第三幕 20分、休憩 20分、第四幕 60分、休憩 10分、第五幕 25分』で、トータル3時間20分となっていた。

以前の放浪記は、25分、10分、5分の休憩があって、トータルの上演時間が3時間30分だった。森光子さんの晩年(2008年〜2009年)には、だんだんと上演時間が延びて、3時間50分ぐらいになっていたこともある。今回は、休憩のトータル時間が1時間15分で、芸術座時代の上演と較べても休憩が5分長いのに、上演時間のトータルは短くなっているので、その分、スピードアップ&カットがあることになる。

森光子さんの最後の「放浪記」となった2009年5月の帝劇公演(の後半)では、タイムテーブルが、「第一、ニ幕 55分、休憩 15分、第三幕 25分、休憩 25分、第四幕 1時間15分、休憩 5分、第五幕 30分」となっていたから、幕ごとに見ても、上演時間は短くなっている。

(なお、シアタークリエと、その後の、大阪新歌舞伎座中日劇場博多座では劇場条件がちがうので、休憩時間の配分は東京公演とは異なる可能性がある)


[演出面での目立った変更、異同]

第四幕の木賃宿の場での、森光子さんのでんぐり返しだったところが、仲間由紀恵さんでは側転(倒立回転から、その後も、横にゴロゴロ転がる)になったのは、すでに芸能ニュースなどでも話題になっているので、これ以上は書かない。

第一幕の本郷の下宿・大和館では、幕切れで、仲間さんの芙美子は、押入れに入って(泣き)声だけになる。この演出変更については、「悲劇喜劇」2015年11月号の新生「放浪記」特集の、北村文典インタビューで述べられている通りである。なお、同インタビューでは「暗転切れ」という表現になっている。

第一幕から第二幕への転換つなぎのナレーションの詩は、以前は使われていなかったものだと思う。ナレーションといえば、小鹿番さんのナレーション、クレジットがなくなった。

第二幕冒頭の、どじょうすくい混じりの芙美子の踊りは、振りが刷新されていた。以前にはなかった「振付」のスタッフクレジットがあり、『振付・ステージング 三浦亨』。

今回は、第二幕のカフェー・寿楽の場からその女給部屋の場への転換では、舞台を回して、店の表から裏へと芙美子が移動するのを観客に見せる演出になった。

第四幕の世田谷の家の場で、(隣家に住む)村野やす子は、以前は家のなかにいて窓を開けての登場だったが、今回は家の外に出ている。


[仲間由紀恵版で、登場しなくなった人物、明らかに短縮されたシーン]

第二幕のカフェー・寿楽にやって来る詩人仲間(南天堂の場にも出て来た)のうち「渡辺一郎」の役がなくなった。

第三幕の尾道の場の最初で、芙美子と言葉を交わす地元の漁師が出なくなって、その部分はカットされている。

第四場の出版記念会の最初の、来賓(出席者)たちのセリフの一部がカットされたり、ガヤのようになって、かなり短縮されている。


[子役の変更点など]

第三幕・尾道の場で、行商人の子がごはんを食べるシーン。以前は、汁かけご飯にして食べていたのが、今回は、ご飯はご飯、お汁はお汁で食べていた。汁かけにしない分、ご飯はたっぷりよそってくれるので、子役は、そのご飯をとても食べきれない。まだまだたくさんご飯が入っているうちにセリフになって、舞台が回った。
箸の持ち方は以前と同様で、グーで握っていた。ついでに書けば、マイクは、胸のところ。

尾道の場は、もともとは堤防があったが、森光子さんの晩年には堤防がなくなって、今回もその堤防なしでその代わりに船と石垣があるセットである。


[梅と竹は、同じ配役]

以前の「放浪記」にも出演した俳優でも、今回はちがう役を演じるのかと思っていたが、第五幕・落合の家の女中ふたり、梅と竹は、前回の森光子さん時代にも同役を演ったふたりがそのままキャスティングされている。


と、まずは、このぐらいで。いちどに書くとネタが尽きるし、再見して確かめたいこともあるので、仲間由紀恵版の観劇を重ねて、続きは、また後日に。

 [追記] 新旧比較
  その2 http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20151018/p2
  その3 http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20151024/p2

それにしても、「放浪記」は、やっぱりよいね。たとえば、第五幕の会話の秀逸さ、ラストシーンの哀感、そして深い余韻。仲間由紀恵さんの林芙美子は、予想以上にすばらしい。主役をはじめ、主要キャストが代わったことで、「放浪記」という舞台そのもののおもしろさも再認識させられる。
とりあえず、初日を見たあとに、2回分チケットを買い足した。


シアターガイドのサイトの舞台写真
http://www.theaterguide.co.jp/photos/2015/10/15.php