『サウンド・オブ・ミュージック』の秘密


瀬川裕司「『サウンド・オブ・ミュージック』の秘密」(780円+税)

http://www.heibonsha.co.jp/book/b186521.html

平凡社新書の今月の新刊。

あくまでも、ジュリー・アンドリュース主演の映画「サウンド・オブ・ミュージック」について、分析、解説した本。著者は、明治大学教授で、専門は、映画学、ドイツ文化史。

著者は、この本のなかで、ヒロインのマリア(=聖女)に対して、エルザを魔女的な人物と見る解釈を提示している。

映画ではそうなのかも知れないけど、ミュージカルの舞台、とくに劇団四季が上演した「サウンド・オブ・ミュージック」を見ると、エルザは大佐の心、あるいはトラップ家を侵略しようとする女性=ナチス・ドイツに擬せられる登場人物のひとり、というふうに思えるよね。

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劇団四季版の「サウンド・オブ・ミュージック」が上演された後に、東宝(ハロー・ミュージカル!プロジェクト)が同じロジャース&ハマースタインによるミュージカル「王様と私」を上演したので、それを見たときに、両作品の構造がそっくりなことがよく分かったのは、おもしろかった。

どちらも、当時の国際情勢(オーストリアタイ王国が置かれていた状況)と、男性主人公の家庭のドラマを二重写しにしていて、ヒロインは子だくさんの家にやって来た家庭教師だ。

シャム王とアンナとの間で疑似恋愛的信頼関係が結ばれることは、シャムの国が英国や西欧の文化と折り合いをつけ、近代化へ向かうこととイコールになっているし、トラップ大佐がナチス・ドイツに迎合的なエルザと訣別してマリアを結婚相手に選ぶことは、オーストリア併合という止められない流れにも逆らうという行動に直結して行く。
また、「サウンド・オブ・ミュージック」でも「王様と私」でも、若いカップルの恋(リーズルとロルフ、タプチムとルンタ)が、政治的な状況下で悲劇的にえがかれている。