わたしを離さないで(彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)


5月9日(金)に、彩の国さいたま芸術劇場 大ホールで、

「わたしを離さないで」

原作:カズオ・イシグロ(「NEVER LET ME GO」)
脚本:倉持裕
演出:蜷川幸雄

を観劇。

午後1時30分開演。

ロビーに掲出されていた上演時間は、『第一幕 1時間30分、休憩15分、第二幕 1時間、休憩10分、第三幕 50分』で、3時間45分。

ただし、初見の回は、カーテンコールが終わったのが、午後5時26分だったので、じっさいのところは、4時間弱の上演時間だった。

公演プログラムは、1600円。

1階客席は、B列が最前列になっていた。なので、この日に座った席は、前から5列目の中央ブロックだった。

関係者席を開放しますという案内が来たタイミングで取ったチケットだったが、たしかに見やすくて良席といえた。メインキャストが机の上(物置になっているあそこが第二視聴覚室、なのかな?)とか、岬の埠頭だか堤防だかの上で演じるシーンがあって、それが客席間近で高さがあるので、もし最前列だったりしたら、かえって見づらかったかも。


配役を書いておきましょう。


多部未華子 八尋
三浦涼介 もとむ
木村文乃 鈴

山本道子 晴海先生(ヘールシャムの保護官、体育教師)
床嶋佳子 マダム
銀粉蝶 冬子先生(ヘールシャムの主任保護官)


内田健司 ケン(現在の八尋が介護している提供者)
茂手木桜子 玲子(ヘールシャムの女子生徒)/漁船を見物していた人
長内映里香 ヘールシャムの女子生徒/香(「農園」の先輩)
浅野望 ヘールシャムの女子生徒/ありさ(「農園」の先輩、亮太の彼女)
堀杏子 由真(ヘールシャムの女子生徒)/漁船を見物していた人
半田杏 美由紀(ヘールシャムの女子生徒)
呉美和 さおり(ヘールシャムの女子生徒)
佐藤蛍 かんな(ヘールシャムの女子生徒)
白石花子 千草(ヘールシャムの女子生徒)
安川まり 成美(ヘールシャムの女子生徒)
米重晃希 宗行(ヘールシャムの男子生徒)
浦野真介 直樹(ヘールシャムの男子生徒)/湿地で鈴が出会う男
竪山隼太 康隆(ヘールシャムの男子生徒)/「農園」の先輩
堀源起 和俊(ヘールシャムの男子生徒)/亮太(「農園」の先輩)
中西晶 わたる(ヘールシャムの男子生徒)
坂辺一海 哲朗(ヘールシャムの男子生徒)/漁船を見物していた人
白川大 譲(ヘールシャムの男子生徒)
砂原健佑 大輔(ヘールシャムの男子生徒)/漁船を見物していた人
阿部輝 功(ヘールシャムの男子生徒)
銀ゲンタ 昭夫(ヘールシャムの男子生徒)/漁船を見物していた人
鈴木真之介 良一(ヘールシャムの男子生徒)/たつや(「農園」の先輩)
高橋英希 邦親(ヘールシャムの男子生徒)/漁船を見物していた人/マダムの家の使用人

ただし、当日の会場ロビーには、農園の先輩たつや役は、鈴木真之介→竪山隼太に変更になりました、との貼り紙がしてあった。


ラジコンヘリが飛んで来る幕開きに、これは何だ?と思っていると、続いて、カリギュラ役者がまたこの芝居でもその裸体を披露するという導入部。あの身体はもはや見どころのひとつなのか?!エロキューションが「カリギュラ」のときと同じだったから、この役者はこういうセリフ回しをするのだな、と。

スローモーションにカーテンにと、この演出家ではすっかりおなじみの手法も繰り出されるのだが、プログラムのクレジットを見ると、『スローモーション指導 新川將人』。男子生徒たちのサッカーシーンにもコーチがいたらしく、『サッカー指導 Butterfly Effect(向井淳也、檜垣裕志)』とある。檜垣裕志というと、けっこう著名な元サッカー選手だよね。

ついでに書くと、この「わたしを離さないで」には、演出補が1名(井上尊晶)、演出助手が4名(大河内直子 藤田俊太郎 塩原由香理 前原麻希)付いている。

『特殊小道具提供 HIROAO』とあるので、ここが、ラジコンヘリを提供した模様。ラジコンヘリは終幕にも飛んで来る。


原作は知らなかったが、映画のあらすじを拾い読みしたので、クローン人間たちの話というSF的な設定だということぐらいは知って見た。日本を舞台に、翻案した脚本である。

臓器の提供者となるためにつくられ、(ヘールシャムという)寄宿学校で育った若者たちのうち、八尋、もとむ、鈴という3人の男女の関係が、十数年にわたって、緻密に展開する。

八尋ともとむは、お互いに惹かれ合っているのだが、もとむに気がある鈴は嫉妬し、ふたりの間が近づくたびに邪魔をすることを繰り返す。見ていてうんざりするような三角関係がえがかれて行くのだが、この3人には、近い将来、臓器を摘出されて命を終える運命が待っているという設定と、そんな提供者たちに猶予が与えられるかも知れないという都市伝説めいた「噂」の存在がミステリーっぽい仕掛けとなって、長い上演時間にもかかわらず、どんな結末を迎えるのかという興味が見る側の緊張を持続させる。

登場人物たちのセリフから、およその設定は分かるのだが、臓器提供のためにつくられたクローン人間である彼らがいかなる位置づけでどのように管理されているかなど、説明されないことも多い。

第二幕以降のシーンを見ると、一般の人びとが暮らす社会とも交わっている彼らは、たとえヘールシャムの出身者でなくてもふつうと変わらない生活が可能な人間であるようなのに、なぜ逃亡も反乱も起こさずに、与えられた使命に従うのだろうか。そのような洗脳が成功していると考えるべきだろうか。

そもそも、臓器提供のためのクローン人間であるならば、必要なのは、肉体だけであって、精神はいらないはず。にもかかわらず、そんな彼らに教育を与えたことからドラマが起きる、というのは分かるのだけれど、それがほぼ恋愛がらみだけのことというのが不思議でもある。また、ヘールシャムという主人公たちが育った寄宿学校以外にも、クローン人間を育てる施設があるという設定になっているのは、かえって話を面倒くさくしているように思えた。

なぜ、クローン人間たちは大人になるまで提供者にならないのだろう?現実には、治療のため臓器提供を求める子どもがいる。臓器提供のための存在なら、年齢にかかわらず臓器を摘出してもいいだろうに。主人公たちは、けっこうお盛んな男女関係を繰り広げているらしいのに、妊娠はしないのだろうか?クローン人間が子どもを産んだら、そこから赤ちゃんに臓器提供出来そうなのに、そういうふうにはなっていないのか?

「農園」だか何だか知らないけれど、クローン人間を野放しにしておいて、一般人と出来ちゃったらどうなるのだろう?その心配はないのか、などと、どうも、見ていてモヤモヤ感が募るところがある。


学校シーンの最初の場では14歳といっているから、第一幕の主人公たちは、中学〜高校生の年代であるが、演じるメインキャストの3人も、さいたまネクスト・シアターのメンバーたちも、その多くが意外なほどに若く見える。

もとむは、第一幕と第二幕とでは、雰囲気がずい分と変わるのが印象的。


高橋英希くんは、3役に配されているが、髪が短くなっているからなのか、男子生徒役のときはすぐに探せなかった。ただ、男子生徒は、サッカーの組分けで名前(役名)を呼ばれるので、そこで確認が出来る。第三幕の、漁船を見物していた人というのは、松葉杖がそうだと思うが、後ろ向きではっきりと分からず。第三幕のマダムの家の使用人が、いちばんよく見える役。ただしセリフはない。カーテルコールでの並びは、下手側。

カーテルコールといえば、ケンが冒頭の場面のように、まさかあの裸体で出て来たりするのか?と思っていたら・・・そんなことはなくて、生徒役の制服姿だった。