バトラー サイモン


吉積サイモン「バトラー サイモン ―外資系ホテルから歌舞伎座へ― 」(TAC出版、1200円税別)
http://bookstore.tac-school.co.jp/book/detail/03692/


歌舞伎座で何度か観劇したことがあれば、いちどならず遭遇しているだろう劇場係員。外人もぎりのひと。じっさいは、父親が日本人、母親がイギリス人のハーフで、日本育ちなのだと。

はじめて歌舞伎座でこの本の著者を見たとき、歌舞伎座は外国人観光客のために常々こういう人物を雇っているのかと思ったものだが、そういう訳ではなかったのだ。

父親はホルン奏者で、両親はドイツで出会ったという。著者が育った家では、両親はドイツ語で会話し、母と子どもたちは英語で、父と子どもたちは日本語で話していたとある。

著者の経歴が分かったのはいいが、歌舞伎座に入ってからの内容は、肝心なことが詳しく書かれずにぼかされていることが多く、隔靴掻痒の感あり。この本を買うのは、ビジネスのための教訓を得たいサラリーマンよりも、むしろ圧倒的に歌舞伎ファンのひとたちだろうに、あくまでもビジネス書の体裁に徹することで、具体的に書けない部分を回避している印象で、私には、違和感のある読書だった。

吉積サイモン氏は、現歌舞伎座の終わりとともに、この4月で「会社都合により退職」するのだそうだが、これについても、会社都合って、劇場の建て替えで社員まで整理されちゃうの?それとも「サイモンズコミュニケーション」というのをはじめたことで肩たたきにあったのか?などとの疑問が湧き出してしまい、書き方の中途半端さがなんとももどかしい。