井上バレエ団「くるみ割人形」全二幕


12月12日(土)に、文京シビックホール・大ホールで、

井上バレエ団「くるみ割人形」全二幕
(芸術監督・振付:関直人、美術・衣裳:ピーター・ファーマー)

を見た。

井上バレエ団の「くるみ割り人形」を見るのは、はじめて。このバレエ団の「くるみ割り人形」は、タイトルが「くるみ割人形」である(が、表記のいわれなどは知らない)。

今回の公演は『井上バレエ団「くるみ割人形」上演25周年記念公演』と銘打たれていて、12日に昼・夜と13日昼の3ステージが組まれていた。


当初、鑑賞予定は入れていなかったのだが、カンフェティで無料ご招待というのをやっていたので、3ステージのうちから、(秋元康臣が主役を踊る)12日昼を選んで応募したところ、当選したという次第。

秋元康臣(NBAバレエ団)というダンサーは、かつて子役として、このバレエ団の「くるみ割人形」で、2年続けてフリッツを踊ったことがあるとのこと。


座席はどのあたりだろうかと思っていたら、2階席後方で、5000円の席位置のうちでも後方にあたるようで、舞台はかなり遠かった。(こんな遠い席からのバレエ鑑賞は、はじめてかも…)

配券は、受付で名前を名乗り枚数を確認すると、係のひとが手に持っているチケットを渡してくれたというもので、あらかじめ当選者の座席が決まっていたのではなく、カンフェティ招待用のなかから来場順に出していた様子だった。


公演プログラムは、1000円。

プログラムといえば、カンフェティ(かわら本でも可)を提示するとプログラムプレゼント、というのもあったのだけれど、本当に提示すればロハでもらえたのだろうか?プログラム購入のための列も出来ていたし、只券の身としては、さすがに試してみるには気が引けたので、1000円で購入。


会場の文京シビックホール(大ホール)は、以前にも来たことがあったが、1階の特定スペース以外はロビーでの飲食が不可とは知らなんだ。


午後3時開演。上演時間は、およそであるが、

一幕、50分。休憩、20分。二幕(カーテンコール+クリスマスソングメドレーを含む)、1時間。


音楽監督・指揮:堤俊作
演奏:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
合唱:フレーベル少年合唱団(合唱指導:手島英)


オーケストラピット使用。

舞台左右の脇花道も使用(「雪のワルツ」では下手側で少年合唱団のコーラス、クリスマスソングでは、左右の脇花道までキャストが並ぶ演出)。


舞台幕に照明で雪を降らせる序曲ではじまる。家族連れや子どもたちがパーティーへと向かう雪道のシーンは出ず、幕前でドロッセルマイヤー(堀登)の顔見せがあったあと、一転、本舞台に照明が入って、シュタルバウム家の広間へと転換する。

「行進曲」は、子どもたちの踊りになるが、前半はクララ(吉本美桜)とフリッツ(アクリ士門)が舞台の上下に別れて踊り、後半もクララとフリッツが踊りの中心になる。クララとフリッツに踊りの見せ場をつくっているところが特徴的。

クララの友達もフリッツの友達も、女の子が演じていた。子役のトゥシューズはクララだけで、クララの友達はバレエシューズ。

観劇回のクララは、フリッツや友だち役の子役たちよりも、背が高かった。

子どもたちは、プレゼントとして人形や剣をもらうが、そのあとに、ソフトクリームを手にするシーンがあって、これはめずらしく感じた。


ドロッセルマイヤーはシュタルバウム家を来訪してもすぐには舞台に登場せず、(前振りの)人形劇→ ドロッセルマイヤーの登場→ 人形(コロンビーヌ、兵隊人形、ハレーキン)たちの踊り、の流れ。

ドロッセルマイヤーは、手品を次々披露するなど、魔術師のイメージだろうか、眼帯を付けて現れるが、眼帯はその後、外していた。


パーティーの後半になると、女の子のひとりが眠たくなったようで、舞台下手にあるソファーで寝てしまう。その寝ている女の子に、男の子たちがあれこれとちょっかいを出すのが、おもしろい。おもちゃの剣で突こうとしてたしなめられたり、ドレスのスカートを捲ろうとしたり。この女の子は、パーティーがおひらきになっても寝たままで、抱かれての退場となる。


広間にある時計の針は、スタート時から9時のままで動かないが、真夜中の12時が告げられると、時計の針の代わりに、ドロッセルマイヤーの顔が浮かび上がる。

ねずみたちの先触れとして、「こねずみ」が二匹、最初に出て来るのだが、この子役のこねずみ二匹がかわいくて、じつに傑作。

このバレエ団のねずみの衣裳は着ぐるみで、しかも、しっぽがとっても長い。こねずみのしっぽも長〜い!ので、それがまた、かわいいさになっている。ちょこまかと舞台を動き回り、また、兵隊たちとの戦いでは、仲間のねずみたちの応援をし、ねずみの王様(大倉現生)がやられると、こねずみは白旗を持って来ての敗北宣言。


クララがねずみたちに襲われているところに、ドロッセルマイヤーが姿を現し、ツリーの前で、くるみ割人形をくるみ割人形の王子(中尾充宏)に変身させるのだが、このときのくるみ割人形の王子は、一瞬のうちに現れて、私の席位置からは、まさに、ドロッセルマイヤーのマジックそのもので、さて、どこから登場したのだろうと、楽しいおどろき。

おもちゃの兵隊のうちのラッパ卒は、フリッツが演じている。


ねずみたちとの戦いが終わると、くるみ割人形の王子が美しい王子(秋元康臣)に姿を変え、続いて、雪の女王(高村明日賀)と雪の王子(小林洋壱)の登場。

クララと王子のアダージョはなく、代わりに雪の女王と雪の王子が踊るかたちだ。

雪のシーンでは、下手側の脇花道に並んだフレーベル少年合唱団による生コーラスが入る。男の子だけの児童合唱は、はじめて聴いたが、全体に声が低く、ぶっきらぼうに聴こえるところもあって、情感や魅力には乏しかった。


二幕は、お菓子の国。(お菓子の国へ到るまでに寄り道があったり、エンジェルたちの導きが付く演出もよく見るけれど)井上バレエ団の「くるみ割人形」は、オーソドックスにお菓子の国オンリーである。

二幕では、クララに踊りらしい踊りはない。一幕では王子とのアダージョもなかったから、クララに踊りらしい踊りがあるのは、クリスマスパーティーの広間の場面だけといっていいだろう。


下手の椅子に座ったクララのために、お菓子の国の住人たちが、各国の踊りを披露する。

スペイン、アラビア、中国、トレパック、あし笛、ギゴーニュおばさん、そして花のワルツ。ギゴーニュおばさんでは、スカートのなかから子どもたちが12人出て来て踊るという、こちらもオーソドックスな展開。

ギゴーニュおばさんの子どもたちは、公演回ごとにスタジオ単位での出演になっていて、12日昼は、ロンドバレエスタジオ。しっかり踊っていて、ご愛嬌的なシーンにはなっていなかったのが、いい。かわいいというだけではなく、ちゃんとしたバレエ団の舞台に相応しい気持ちのいい子どもたちの踊りだった。


長身で繊細なイメージの王子による、ダイナミックでスケールの大きい踊りは、期待通りに見ごたえ充分。

最後は、クララが夢の世界の王子と別れ、再び、シュタルバウム家の広間に戻って幕となる。


カーテンコールでは、ふたりのこねずみが、長いしっぽを右手に持っていたのが、おもしろい。

カーテンコールのあと、主役の金平糖の精(田中りな)と王子によるカーテン前があり、その後、幕が上がると、クリスマスソングのメドレー。ロイヤルメトロポリタン管弦楽団の演奏で、キャンドルを手にしたキャストたちによるクリスマスステージのプレゼント。王子も登場して、なかなかの盛り上がりで、楽しいフィナーレになった。


今回は、無料招待での鑑賞だったが、この「くるみ割人形」なら、もっと舞台に近い席で再見したいと思う。

ただ、井上バレエ団の「くるみ割人形」は、王子が、ゲストダンサーになるようで、自前の王子は出ないのだろうか?
ゲストが王子を踊るにしても、外国人ダンサーを招くよりも、今年のように、国内で活躍する注目の日本人ダンサーを主役にしてくれたほうが、鑑賞意欲がそそられるのだが。


とにかく、二匹のこねずみが、おもしろかわいい。

2階席から見ていたこともあり、照明の美しさが印象的だった。


プログラムによれば、このバレエ団の「くるみ割人形」では、クララ(と、ギゴーニュおばさんの子供たち)以外の子役は、全ステージとも同じ子が同じ役で出演する模様。