「バレエに育てられて 牧阿佐美自伝」を読了


「バレエに育てられて 牧阿佐美自伝」(新書館、2400円税別)

を読んだ。

いやもう、すばらしくおもしろい。びっくりの連続。

私が、日本のバレエ史に詳しくないものだから、はじめて知ることが多いということもあろうが、牧阿佐美さんの生い立ちなどプライベートな部分だけでも、充分過ぎるほどにドラマティック。

橘秋子の長女として生まれながら、すぐに養母に預けられたり、さらに、出生届は翌年になってから祖母のいとこにあたる親族の家の子として出され、その後に、実母の養子になったという、その生い立ちというか、養母と実母とふたりに育てられた子ども時代の話だけでも、おどろいてしまう。「牧」という姓は実父の芸名からとったもので、その父は戦前インドに行ったまま帰らず、後年、危篤の知らせで牧阿佐美さんがインドへ赴いて最期を看取り、骨を持って帰ったなど、そのままドラマのヒロインみたいな半生。(大原永子さんは橘秋子の養女になったので「妹」だというのにも、びっくり) これに、バレエダンサーや振付家としての活躍や、母娘二代にわたるバレエ団・バレエ学校の運営がある訳だから、全頁を通してすべてが読みどころ。

単に自伝というだけでなく、時々の日本のバレエ状況に目配りしながらの回想で、そのなかにあっての橘秋子や牧阿佐美バレエ団の立つ位置や、バレエ教師としての自身の考えも語られる。日本のバレエ史に著名な人物やその関係等がひも解かれているのも、私のような無知な読者には貴重な解説といえる。名のあるダンサーたちの年齢が分かる記述は、親切だ。

バレエというと、古典の全幕公演というイメージを抱きがちだが、むかしは創作が多かったことがよく分かる。ベビーバレエ団なんてあったとは、おどろき!
春日野すがる乙女が見てみたいなぁ、と思うのであった。

余談だが、牧阿佐美さんは、1933年5月12日生まれというから、(同年3月生まれの)浅利慶太氏と同い年なのかと。