SHOW-COMPANY オリジナルミュージカル「NEXT DOOR」東京公演 (シアターサンモール)

(だいぶ日にちが経っているが、夏の観劇の締めくくりのつもりで…)


8月22日(金)は、新宿・シアターサンモールで、

SHOW-COMPANY オリジナルミュージカル「NEXT DOOR」
(脚本・音楽:えーぱん、脚本・演出:阪上めいこ、振付:山本京、原作:持木克規)

を見た。


大阪・八尾市を拠点に活動する関西のミュージカル劇団、SHOW-COMPANYの初の東京公演ということで、8月22日に3ステージ、23日に2ステージ上演された。このうちの、2ステージを観劇。

今回の東京公演の情報を目にするまで、全く予備知識のないカンパニーで、当初、見に行こうかどうしようかと迷っていて、やっと観劇日の数日前にチケットぴあでチケットを購入した。小劇場で5500円(全席自由)の値段はいささか高いように思ったのだが、いやとんでもない、「NEXT DOOR」東京公演は、楽しさ横溢の舞台だった。

8月は有料公演を17ステージ見たが、そのなかでは、このSHOW-COMPANY「NEXT DOOR」がダントツによかった。

これほど楽しんだミュージカルは、最近では昨秋の「ザ・リバー」(於 戸田市文化会館)ぐらいしか思い浮かばない。「ザ・リバー」が昭和39年の出来事で、「NEXT DOOR」は昭和40年のお話。戸田と大阪、ところはちがえど、ほぼ同じ時代に設定したミュージカルがどちらも傑作といっていい舞台になっていたのは、偶然か、それとも何がしかの必然的傾向だろうか…


22日(金)15時開演の公演を見て、あんまり面白いので、もういちど見たいなと思ったら、なんと!カーテンコールの際に、リピーター割引で『5500円→2500円』にするという案内があったので、そのあとの、19時開演のステージも見て帰った。おかげで、舞台を堪能した上に、ワンステージあたりのチケット代が4000円になって、とってもお得な心持ちであった。


さて、「NEXT DOOR」。上演時間は、(休憩なしで)2時間とちょっと。

プログラムは、入場の際に、カラー二つ折り4頁のものが配布された。劇中ナンバーの全歌詞が載っているのが、親切。


昭和40年の大阪。薫薫堂(くんくんどう)という駄菓子屋には、個性豊かな子どもたちが入れ替わりやって来てにぎやかだ。薫薫堂のおばちゃんこと薫(阪上めいこ)は、そんな子どもたちとの交流の毎日に幸せを感じていたが、ある日、いのち銀行の営業マン(阪野登)と称する男が薫の前に現れる。
薫の寿命は、終戦前の昭和20年に心臓発作を起こしたときに尽きていたのだが、硫黄島の激戦で死んだ夫・堀田政男(山本拓平)が本来生きるはずだった命をいのち銀行が預かり、事故ナシ病気ナシの20年で妻の薫に融資していたためにこれまで無事に生きて来られたが、その期間が終了する、と告げられるのであった…


駄菓子屋に集まる子どもたちのうた、演技が、絶品のおもしろさ。薫薫堂のおばちゃんとの生き生きとした掛け合いも舞台を弾ませる。

セリフのシーンのあとに、漫才コンビのみちこ(徳尾野藍)とたかこ(北川茉由)が勢いよく登場して目先を変えたり、大人キャストのシリアスな会話の途中に子どもが割り込んでおばちゃんとやりとりしたりと、とくに前半は、子どもたちの出番をアクセントにして、舞台に緩急を付けていた。みっちゃんたかちゃんの漫才のあと、そのネタに絡めたナンバー(「大阪のおばちゃん」や「タコヤキブギー」)になる流れも楽しい。

ソロナンバー「大阪のおばちゃん」を歌い上げる女の子・ようこ(中川みのり)、なぜかエリザベス・サマンサと呼び合うよしこ(河野菜摘)とその姉・とよこ(宮田絢子)、口真似するじゅんこ(梅本杏莉)、ランニングシャツ姿のどでかい小学生・君夫(北嶋大暉)と、子どもたちは多士済々。


子役のなかでは主役である幸子(一瀬裕実)が、薫薫堂で君夫やよしこと友だちになる場面は、キャラクターのおもしろさもあって笑いがまぶされているが、幸子の心根が上手く表現されている。君夫に「友だちになってくれへんか」といわれて「ええよ」とこたえるやさしさや、よしこに姉がいること知って「ええなぁ」とうらやむさびしい心情、町子(徳尾野楓)とにらみ合いになりながらも、君夫の言葉を受け容れる思いやりなどが、さりげなくえがかれる。

養護施設を抜け出して行き場のない幸子と、施設へ行くことになるかも知れない不安といらだちを抱えている町子。子役ふたりが、上手・下手に別れて心象をうたい上げるナンバー「愛してよ」は、いかにも昭和を感じさせる歌詞とメロディーが、かえって新鮮な陰影を舞台に映し出す。


時代を表現するためだろう、ミュージカルナンバーは全般にノスタルジックな曲調が多い。何度でも聴きたくなるうたがいくつもあって、劇場にいるひととき、その音楽に心が満たされた。

幕開きの客席を温め、フィナーレをショーアップして締めくくる「駄菓子屋エンジェル」は、溌剌とした子役たちのダンスと、歌詞や曲調の懐かしい色合いとで作品を象徴し、カンパニーのテーマ曲らしい「That's Entertainment 大阪」のノリのよさは、気持ちを浮き立たせてくれて、エンディングにふさわしい一曲だ。
あるいは、「昭和大阪ロック」の楽しさも忘れがたい。


いのち銀行というファンタジックな設定を意外に抵抗なく受け容れられるのは、戦死した夫と、駄菓子屋を切り盛りしながら戦後を生きた妻との、時間を超えた絆のドラマに収斂させる運びだからだろう。

また、命を融資する銀行という設定を用いた後半の展開も面白い。薫が、いのち銀行のキャンペーンポイントを使って自分が「いたこ」になり、幸子を祖母に会わせてやったり。
幸子と同じ施設の卒業生・あけみ(以倉里江子)が町子を悪事に誘い込もうとしてひと悶着あり、薫が刺されてしまうが、融資の契約期間がまだ一日残っているとして、刺された事実を撤回させるなど(おばちゃんが刺された、という愁嘆場に、週刊マーガレットを取りに現れるよしこちゃんが絶品である)。


終盤、幸子の希望を汲んで、おばちゃんと子どもたち、隣家の娘・智子(山本京)や養護施設の先生・鈴子(臼井美紗子)も加えた一行が遊園地に出かける場面が、出色。ジェットコースターは、ステージが迫り上がると、ぐんとそれらしさが増し、マイムで見せるメリーゴーランドは、タイトルと同名の「NEXT DOOR」の歌唱に乗せて、シンプルな演出なのに雰囲気たっぷりだ。
(シアターサンモールで迫りを使った公演を見たのは、私には、この「NEXT DOOR」が2度目のことである)


薫の遺志で、町子の母・綾乃(鎌苅泉)があとを継いで薫薫堂も健在、幸子は引き取られて町子と姉妹になるという結末は、見事なハッピーエンドで、ほろりとさせる。後味のよさも、ばつぐん。


カーテンコールでは、駄菓子屋のおばちゃんを演じた座長で主演の阪上めいこさんからあいさつがあったが、その真摯で謙虚な言葉が、舞台ともどもに好感度を高くしていた。

それより何より、7人の子役が、粒ぞろいですばらしく、かわいいのは、特筆すべきことだ。奇跡としか思えない。


余談だが、2ステージとも、観劇中、舞台風がとっても涼しくて気持ちがよかった。


大阪では、くじ(籤)のことを「あてもん」というのか!たまげた(笑)。「さすべえ」なんて初耳だし。って、帰ってから楽天とかで検索してみたら、さすべえ、たくさん売っていて、おぼげだ(笑)。が、そもそも、雨が降ったときにケッタに乗ると、雨が前から来るからさすべえで傘差したとして役に立つのか?とか、疑問は消えない(笑)。

蛇足だが、この日(=8/22)、シアターサンモール近くの公園では、盆踊りをやっていたようだ。

 [追記]
  SHOW-COMPANY公式サイト→http://www.musical.co.jp/


※後日、一部文章を直しました。