バレエ シャンブルウエスト第55回定期公演「くるみ割り人形」(全幕) 雑感


昨年(2007)年12月23日(日・祝)は、いちょうホール(八王子市芸術文化会館)で、

バレエ シャンブルウエスト第55回定期公演「くるみ割り人形」全幕(演出振付:今村博明、川口ゆり子)

を、昼・夜2ステージ見た。

先のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20071224/p2)と一部内容が重なるが、以下は、その雑感。


私が、バレエ シャンブルウエストに関心を持ったのは、かのレッスンDVD、基礎からはじめる「子どものためのバレエ入門」上・下巻を買って見たのがきっかけ。

くるみ割り人形」を見てみたいと思いつつも、2006年末は予定が合わずにあきらめ、2007年になってから「フェアリーテイルズ」や「おやゆび姫」を見て心の準備をしながら、満を持してこの日の「くるみ割り人形」鑑賞となった次第。

バレエシャンブルウエストの「くるみ割り人形」は、すでに、八王子ではクリスマス時期の風物詩のひとつらしいが・・・私にとっては今回が初体験。


タイミングのいいことに、2007年公演は、当初、クララが『石川怜奈(22日)・佐々木万璃子(23日昼)・川口りさ(23日夜)・飯塚萌乃(24日 ※三井七海に変更)』と発表されていた。つまり、基礎からはじめる「子どものためのバレエ入門」のDVDにレッスンモデルとして出演していた女の子4人が、クララにキャスティングされた訳で、これには大いに鑑賞意欲をかき立てられ、なかでも、佐々木万璃子さんのクララは、楽しみの筆頭であった。


さて、12月23日は、2回公演あって、マチネが午後2時開演、ソワレが午後6時30分開演。(上演時間は、20分の休憩込みで、2時間10分。マチネは、10分くらい遅れての開演だった)

公演プログラム、1000円。
(12月24日のクララが、チラシの発表から変更になっていて、ちょっとびっくり)


東京ニューシティ管弦楽団の演奏で、オーケストラピット使用。(指揮:江藤勝己)


23日の主な配役は、

金平糖の女王:吉本真由美(昼)・橋本尚美(夜)

チャーミング王子:舩木城(昼)・正木亮羽(夜)

雪の女王:田中麻衣子(昼)・深沢祥子(夜)

ドロッセルマイヤー:今村博明

クララ:佐々木万璃子(昼)・川口りさ(夜)

フリッツ:神野洸一(昼)・諸星和己(夜)


序曲に続いて幕が上がると、紗幕越しに、スタールバウム家の玄関(門)前。パーティのお客様の到着が待ち遠しいのか、寒い中をフリッツ、クララが外に出て来るが、すぐに家のなかへ。その後に、クリスマスパーティの招待客たちが子ども連れでやって来て、クララのお家へ入って行く様子を見せる。

そして、あっという間に、舞台はパーティ会場の広間になる。この転換が、すごかった。一瞬にして、スタールバウム家の門前という屋外が、クララやお客様たちのいる広間になったのだ。ソワレのときに、気を付けて見ていたら、吊りものを引き上げて照明を変えるだけのことなのだが、マチネを見たときは、まるで魔法のような転換に思えて、心を奪われた。

シャンブルウエストの「くるみ割り人形」は、パーティの場の大人たちがクラシカルな扮装をしている。執事が白いかつらを被っていたりして、ちょうど同時期に帝劇で上演されていた「モーツァルト!」みたいな装い。

クララのお友だちは、男女6人ずつ。男の子役がボーイズだから、子どもたちがペアになって踊るところは、子どもながらに、踊りにそれなりの雰囲気がある。男の子役を女の子がするバレエ団やカンパニーとは、ひと味ちがう印象。

ドロッセルマイヤー判事は、第1幕では、パーティでの狂言回し役を務め、クララを夢の世界へと導くが、けれん味のない役作りであり、第2幕では、クララが夢の世界からもとの広間に戻るときに登場するだけで、意外と出演シーンが少ない。バレエ団の主宰者が演じているのだが、出過ぎずに、クララを見守り、ダンサーたちを引き立てているようなあり方が特長的だ。


夜も更けて・・・ねずみたちが出て来る。(このうち、小ねずみは、プログラムによると、21匹)

ここでお約束の、クリスマスツリーがどんどん大きくなって行くのだが、これが本当に大きくなる!上に吊り上がるのだが、ツリーのすそも広くて、と〜っても大きいのだ。このシーンでは、クララとねずみが同じサイズになる訳だから、あれだけツリーが巨大化すると、客席で見ていてもじつにファンタジックで、魅了される。

ねずみたちと兵隊たちの戦いでは、兵隊が鉄砲を撃つと、小ねずみが2匹倒れて担架で運ばれるという演出が、楽しい。少しして、2匹が下手ソデからまた出て来て踊っていたから、きっとかすり傷だったのだね。

クララがスリッパを投げて気を逸らした隙に、くるみ割り人形がねずみの王様を倒して(クララが投げたスリッパを、小ねずみが一匹戻って来て拾って行くのだけれど、そのとき、その小ねずみがちゃんと演技をしていて、面白かった)・・・
その後は、くるみ割り人形の衣裳をドロッセルマイヤーが脱がし(引き抜きというほどスムーズではないのが、やや残念)、帽子とマスクを外すと、チャーミング王子に変身。

クララと王子のパ・ド・ドゥでは、少女クララに情感があって、すばらしい。舞台は、大きなクリスマスツリーをすそからも吊り上げて、雪の国へ転換し、雪の女王の登場。
雪の精は、24人で、ここの群舞が圧巻。「雪のワルツ」では、こういう群舞こそ見たいのである。そして、舞台下手端で、八王子市立東浅川小学校の子どもたちによる児童合唱が入る。


第2幕は、まず、女の子たちによるエンジェルのシーンから。このエンジェル(8人)の衣裳が優れもので、すそが輪のようになっているだけなのだが、歩く様子は、足が床についていなくていかにも浮かんでいるように見える。そのエンジェルたちに導かれたクララと王子は、お菓子の国へ到着。
歓迎を受けるクララが、ケーキのクリームを指でとってなめるしぐさが、かわいい。

お菓子の国での進行は、到ってオーソドックスに、舞台下手の椅子に腰かけたクララの前で、踊りが披露されて行く。余計な趣向はなく、踊りを見せることに徹しているように見えながら、それぞれのキャラクターがクララのために踊っていることがちゃんと表現される。
とくに、金平糖の女王とチャーミング王子は、何度もクララに目線を送り、また、投げキスをし、気持ちを振る演技をするので、クララがお客様として大切に遇されているという状況とともに、この「くるみ割り人形」がクララのストーリーであることも示される。

ディヴェルティスマンでは、「キャンディ」をジュニア&キッズのダンサーが受け持つ。小さいキャンディが6人と、大きいキャンディが6人。これにクララが加わる。


クララには、中学生年代の子が配役されていたようだが、踊るシーンの多さは特筆すべき。

1幕の後半でチャーミング王子と踊ったあとも、雪の国で王子と雪の女王の間に入って3人で踊る場面があるし、2幕は、お菓子の国に着いての「情景(クララと王子)」で金平糖、王子との踊り、「キャンディ」ではセンターに立つるなど、大活躍だ。
その「キャンディ」をはじめとして、フェッテで回るところは、何回まわっていただろう。少女クララがこんなにも踊るのかと、見惚れてしまうシーンの連続だ。「終幕のワルツ」の最後も、クララが真ん中でトウで立ってきまる。

ストーリーのなかでのクララの比重が大きい上に、踊りどころも多いから、見ごたえたっぷりな好舞台だった。


(マチネの)佐々木万璃子さんのクララは、踊りで見せる少女らしい瑞々しさと、しぐさや姿の上品さとの兼ね合いに魅力があり、(ソワレの)川口りささんは表現力に優れ、愛らしいクララを造形するとともに、踊りに安定感があってよかった。

特に第2幕で、金平糖の女王やチャーミング王子に対するリアクション(演技の受け方)が、ふたりのクララそれぞれにちがっていて、持ち味が感じられた。佐々木万璃子さんのクララはエレガントな印象で、川口りささんのクララはリアクションが丁寧だ。


また、石川怜奈さんのキャンディも、かわいかった。
(クララで出ない日には、キャンディを踊っている。たとえば、前の日=22日は、別の日のクララ3人がキャンディで揃っていたり、フリッツでは、諸星くんは2幕でキャンディにも出るし、もうひとりのフリッツの神野くんは、フリッツで出演しない回はクララの友達役でパーティの場に出演しているなどなど、いちどといわず、何度も見たくなる配役がされている)


カーテンコールは、カラフルな紙吹雪や風船が降って来る、まばゆい演出。クララも、ドロッセルマイヤーのエスコートで、前に出て、拍手に応える。

キャストによる、おもちゃ(ぬいぐるみ)投げがあって、客席では、子どものお客さんを中心に、席を離れて前のほうへ出て来てもらおうとするひとも多く、ちょっとした争奪戦。

第1幕のみ出演の子役(&エンジェル)たちが、カーテンコールに出なかったのは残念だが、じっさいのところ、舞台には並ぶスペースがないかも知れない。たとえば小林紀子バレエ・シアターのように、第1幕の幕を下ろした後に、カーテン前に出すというやり方もあろうが、そこまではしないのも、また、見識である。


主役からコールド、子役まで自前で揃えるバレエ団の「くるみ割り人形」というのは、いいものだと思わせる。

(いいといえば・・・神野洸一くんて、いいよね)