林芙美子と有吉佐和子

先月になるが、
関川夏央「女流 林芙美子有吉佐和子」(集英社、1800円+税)
を読んだ。「放浪記」を見たあと、「三婆」を見るまでの間の読書としては最適な一書であった。

林芙美子の旅」「有吉佐和子的人生」の二部からなる。
集英社のPR誌『青春と読書』に連載されたものに加筆、修正して、「女流(作家)」というくくりで一冊にまとめたもの。評伝というほどではない、人物伝といった内容だが、林芙美子をえがいた芝居や、劇化された有吉佐和子原作ものを楽しむための副読本という意味で面白く読んだ。

菊田一夫作の舞台「放浪記」では、手塚緑敏(劇中の役名は藤山武士)を伴侶に得たあと、場は、林芙美子の晩年にまで飛ぶから、なんとなく、芙美子は落ち着いて仕事に邁進していたのかと思ってしまうが、じっさいは、舞台「放浪記」ではえがかれていない「途中」も、ずい分と恋多きひとで、夫を日本に残し、海外にも出て、行く先々で男に惚れている。

有吉佐和子というひとは「戦前の帰国子女」で、子ども時代をジャワで過ごしたことがあり、屋外労働をするのは現地人のみというジャワでの暮らしを経験した。帰国して目の当たりにした、日本人が田植えをしている国内の現実とのギャップに驚愕した、というエピソードは印象的だ。
「伊勢音頭恋寝刃」のもとになった事件を小説化した「油屋おこん」の連載は中断。「開幕ベルは華やかに」のあと、小説はひとつも発表されなかった。複数の長編を完成させていたが、出版社が二の足を踏む内容のものもあったらしく、日の目を見なかったという。

有吉佐和子が「笑っていいとも!」のテレフォンショッキングのコーナーに出演し、「番組ジャック」したときのことも書かれているが、これは、当時、リアルタイムでテレビ放送を見た記憶がある。