さいたまネクスト・シアター第6回公演「リチャード二世」(彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター(大ホール内))


YUKIO NINAGAWA 80TH ANNIVERSARY
彩の国シェイクスピア・シリーズ第30弾×さいたまネクスト・シアター第6回公演

「リチャード二世」

(作:W.シェイクスピア、翻訳:松岡和子、演出:蜷川幸雄、演出補:井上尊晶、振付:佐野あい)


以下は、4月6日(月)昼のステージを見て、思ったり気づいたりしたことのあれこれ。

今回は2回見ることは出来なかったが、残席があった別の日に、第一幕まで(=前半)を見ている。

観劇したステージは、どちらも同じ配役だったので、過去ログに書いたとおり。

 ※こちら。→http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20150407/p4(さいたまネクスト・シアター第6回公演「リチャード二世」のキャスト)

上演時間は、1時間30分+休憩15分+1時間30分。

チケットは4000円(自由席)だが、冊子タイプの公演プログラム(表紙込み20ページ)が、配役表やチラシ類とともに無料配付された。

なお、一部情報では、(リチャード二世の)王妃・イザベル役は複数キャストの交互出演になっていたらしい。


さいたまネクスト・シアターの公演ではすでにおなじみの、さいたま芸術劇場の大ホールステージ上につくられたインサイド・シアターは、いつも通り、アクティングスペースを階段状14席×5列の客席が三方から囲むかたち。奥舞台に正対する客席が正面にあたるのだが、今回は、その正面客席の中央に通路が設けられていて、その階段通路と上部の高所スペースでも役者が演技した。
休憩後の第二幕では、その客席階段を使って、リチャード二世の「階段落ち」もあった。

今回は、さいたまネクスト・シアターの公演ながら、さいたまゴールド・シアターとの合同公演の趣き。幕開きでの、車椅子に乗ったさいたまゴールド・シアターの役者たちの登場は、なかなかのインパクトだ。歩けないわけではない老人たちが車椅子に乗っていて、ネクスト・シアターの若者たちがそれを介助さながらに押して来る様は、高齢化社会・日本を風刺するねらいでもあるのか。いや、理屈でなく、何か、ただならぬものがあった。

さいたまネクスト・シアターの公演なのに、少なくない役にゴールド・シアターの役者たちが配されたことで、ネクスト・シアターのメンバーは割を食った感がある。女性の役が少ない作品なのに、その少ない役に、ばあさんたちが配されてしまっては、とくに女優陣には気の毒だ。演出家も、若い役者たちに対して意地悪なことをするなぁ、と思ってしまう。

見る側にとっても、ネクスト・シアターを見に来たのであって、じいさん、ばあさんを見に来たわけではない。かつての、こまどり姉妹のときは、出演シーンも限定的だったし、投入された異物と思って見ていれば済んだが、今回はとにかく大勢だし、さまざまな役にも配されている。ゴールド・シアターのほとんどのメンバーは芝居が上手いのでもなく、むしろ、セリフが詰まったり、不明瞭だったり、演技がぎこちない者が少なからずだ。
なかには、上手いじじいもいるぞ、と思えば、彼らは、ネクスト・シアターのメンバーが老け役を演じている。

4月6日のステージでは、休憩後の客席に、いくつか空席が出来ていたが、大勢のじいさんばあさんたちにあてられて、気分でも悪くなったか、あるいは、リチャード二世がセリフとともに吐き出すよだれのすさまじさに怖れをなして逃げ出したのかも?
私も2回目の観劇時は、休憩のときに帰っちゃったけど、休憩直前のシーン、波の上の高橋英希くんのスティーヴン・スクループ役をどうしてももういちど見てみたくて、前半だけでも見ようと思ったからで、別に逃げて帰ったのではない。


老人たちの乗る車椅子のインパクトは大きいが、リチャード二世が座る(陥落後は、いとこのヘンリー四世が座る)玉座も車椅子で、その玉座のみが電動車椅子である。

この芝居は、若き王・リチャード二世(内田健司)と、彼によっていちどは追放されながら帰還して王位を奪う従兄弟・ヘンリー・ボリングブルック(竪山隼太)と、そのふたりの間を日和見してついには命乞いまでするに到るもうひとりの従兄弟・オーマール公爵(竹田和哲)の、いわば3人の従兄弟たちのドラマという見方が出来る。この従兄弟3人の関係が面白い。

リチャード二世は、同じ役者が以前に演じたタイトルロール・カリギュラと較べれば、その独裁ぶりも暴虐ぶりもスケールが小さいので、その分、王位を簒奪するライバルのヘンリー・ボリングブルック(ヘンリー四世)の役の比重が大きく、性格設定もリチャード二世とは好対照にえがかれる。

王座から落ちた従兄弟から、次の王たる従兄弟へと、権力の間を上手く立ち回ろうとするオーマール公爵は、おいしい役どころである。ふたりの従兄弟に較べれば立場が複雑な分、しどころがあって、役得なのだ。演じた竹田和哲(たけだかずあき)というひとは、なかなかの二枚目だし、今回は、主役、準主役の従兄弟役ふたりと並ぶ注目をされただろう。
(この役者さん、高橋英希くんとは年齢は5つちがうようだが、検索してみると、中・高校が同じ学校だね)


劇中で何度かある、男同士で踊るタンゴは、その時々の、両者の力関係(優・劣)を表現していたようだ。

脱がされたり、脱いだり、はだけたりの連発だが、なかでも、王座から陥ちたリチャード二世が、キリストの磔刑を模した姿で床に横たわるシーンは、印象的。

リチャード二世は、いくらたくさんのセリフをしゃべるとはいえ、あんなによだれが出ちゃうのは(カリギュラでもそうだったけれど)、ちょっとどうなのだろう。発声なのか、朗誦術なのか、セリフのテクニックなのか、いずれにしても改善の余地があるのでは?

リチャード二世から王冠が空中浮遊して、ヘンリー・ボリングブルックの頭上へ移る仕掛けは観客に丸分かりで、それ、手でやってもいいじゃん。

ふたりの元ヤングシンバが上半身を披露(?)するのを・・・・私は、久しぶりに見た。

余談だが、さいたまゴールド・シアターって、昨年は海外を含む公演を、けっこうタイトな日程で行なっていたようだし、高齢者劇団にしてはタフなのかな。