ミュージカル「あいと地球と競売人」(8/21、青山劇場)


青山劇場で、ミュージカル「あいと地球と競売人」(作・作詩:東龍男 作曲:平吉毅州 総合演出・総合振付:山田卓 演出・振付:木村かなえ)

を観劇。
今回、初の東京公演として、8月21日(火)と8月22日(水)に、各1回ずつあった公演のうち、8月21日のステージを見た。

開演は、午後7時。ロビー表示の上演時間は、休憩なしの1時間30分。じっさいは、7時5分にはじまり、カーテンコールのあとのオーケストラ演奏が終わったのが8時35分頃だったから、ちょうど90分であった。


チケットは、すでにホームページで告知されていた通り完売の表示が出ていて、当日券の販売は、なし。ただし、客席には、空いたままの座席が、あちこちにあった。


プログラム(表紙込み、8ページ)は、入場の際に、島根のPR誌等といっしょに無料配布(透明の手提げ袋入り)。

ロビーを見渡すと、(主催の)島根県民会館宛てに劇団四季からの花など。島根県民会館は、劇団四季が全国公演を行なうホールのようである。


客席に入ると、オーケストラピットがあって、びっくり。生オケだー!!演奏は、島根大学吹奏楽団(指揮:平山哲也)。

それも、「アニー」仕様のオケピットでなく、東宝ミュージカルで使うときのそれ。つまり、1階客席は、A列が最前列で、いちばん端のブロックはB列から。

ピットの上には、舞台と客席通路とを行き来するための「橋」が、上手と下手にひとつずつ渡され、また、ピット中央の本舞台との境に、あいちゃんの机(劇中で、あいちゃんがマンガを書く部屋)がある。


序曲とともに、レーザー光線が緞帳に絵やタイトルをえがき出す。なかなか斬新で、期待に胸が高鳴る。

妖怪の首領は競売人のジョーに依頼し、環境破壊が進む地球を競売にかけて売り飛ばそうとするが、もっともっと地球を汚したほうが高く売れるとあって、さらなる汚染を企む。一方、人間の世界では、環境問題に関心の薄いみんなに、あいちゃんがその大切さを訴えていた。地球を思うあいちゃんの存在を知って危機感を抱いた妖怪は、死神を放ってあいちゃんの命を狙い、あいちゃんはその思いをマンガに託して亡くなる。が、あいちゃんの遺志を受け継いだ子どもたちは気持ちをひとつにして、妖怪の陰謀を打ち砕く、というお話だ。

環境問題は、戦争や原発と同じで、様々な立場や考え方があり、まともに取り上げるとややこしいことにもなりかねない。それを、妖怪や死神が登場するファンタジーとしてデフォルメし、標語的な正論にまとめてしまうというやり方はミュージカル的ではあるが・・・この設定には、もうひとつ乗れなかった(たとえば、最初の妖怪のシーンが長過ぎるとか、「競売人」という珍しいキャラクターを登場させた割りに、期待したほど活躍しない、など)。

にもかかわらず、私は、この「あいと地球と競売人」という舞台に、涙がこみ上げるくらいに心揺さぶられ、魅力を感じた。


それは、この舞台の演出が、アンサンブル主体のようでありながら、じつは「あいちゃん」を際立たせることに徹していて、あいちゃんというひとりの女の子を伝説化するがごときつくりになっているからだ。

このミュージカルのストーリーは、あいちゃんのモデルになった女の子が描いたマンガとは別もののはずだが、観客は、あいちゃんと実在したモデルの女の子とを重ねて見ることになるから、劇中のあいちゃんが自分に訪れる死を予感しているようなフレーズ(歌詞)を繰り返してうたうだけで、涙腺を刺激され、胸が熱くなる。また、あいちゃんはシーンの多くで舞台の真ん中にいて、ライトが当たり、キャストのシンであることが明確に示される。

劇中で亡くなったあいちゃんが、真っ白な天使になって登場するシーンは圧巻で、まさに、彼女は地球を救うための天使だといわんばかりであり、まさにそうだと頷いてしまう。


前島歩乃果さんが、主役を演じるに相応しい逸材で、類稀なルックス(なんとスレンダーなのか!少女として完璧といっていいその美しさ)、透明感のある声、歌唱は天使そのもので、舞台に立つあいちゃんの魅力が増幅する。

そんなあいちゃんを盛り立てる、大勢の子どもたちの群舞や合唱が、またよくて、ストーリーやキャラクターに多少の不満をおぼえたとしても、それ以上に、あいちゃんと子どもたちがつくり出すアンサンブルの力にねじ伏せられてしまうのだ。


人間の登場人物を子どもだけにして、大人の人間を出さなかったことは、この舞台のいいところ。

リピートされるメインナンバーが印象的。

エンディング、カーテンコールでは、子どもたちが客席におりてうたい、メッセージ付きの花を配る(お客さん全員には行き渡らないのが残念)など、ステージの締めくくりを盛り上げる。


それにしても、あいちゃんを演じた前島歩乃果さんは、すばらしくも麗しい。マイクは、左のほっぺのあたりに付けていた。
もういちど、うたを聴きたいものである。


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関連の過去ログを抜粋。
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070816/p1
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070806/p1
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070610/p2
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070503/p2