「The River ザ・リバー 二本の櫂」を観劇

先日、11月3日(土・文化の日)は、戸田市文化会館で、

戸田市民ミュージカル「The River (ザ・リバー) 二本の櫂」(作・作詞・演出:犬石隆、音楽監督・作曲・作詞:玉麻尚一、振付:夏貴陽子、テーマ曲:小椋佳)

の2007年公演を観劇。

過去ログのこれ。↓
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070526/p3
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070721/p1
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070913/p3



昨年(2006年10月1日)、埼玉県戸田市の市制40周年記念事業として上演された市民ミュージカルの再演である。昨年の舞台は見ていないので比較は出来ないが、パンフレットによれば、内容をバージョンアップしての再演とのことだ。

キャストは、戸田市内在住、在勤、在学の小学3年生以上の条件で新たに公募、5月にオーディションをし、71名のなかから選ばれた45名。(他に合唱団として、21名)


市外者の私は知らなかったが、公演を前にして、9月には北戸田のイオンで子ども出演者が「ザ・リバー」のミュージカルナンバーをうたうPRイベントを行なったそうで、会場の掲示物では、稽古の様子や衣裳パレードなど、本番に到るまでの出演者の表情が紹介されていた。


さて、「ザ・リバー」は、午後1時開演と、4時30分開演の2回公演あって、上演時間は、休憩なしの1時間30分。

全席自由(一般1500円、高校生以下750円)で、入場の際は長い列に並ぶことになったが、座席の確保に困るようなことはなく、2回とも「かぶりつき」で楽しんだ。


一部の子ども出演者は、赤組(=1時)と青組(=4時半)のダブルキャストだが、役付きでない回には子ども役で出演するというかたちなので、皆、2ステージとも出演していた。


時は、1964(昭和39)年。東京オリンピック開催が間近に迫った頃。大きな河の川岸の街で鉄工所を営む川上宗男・幸子夫婦には小学生の子どもが3人いる。長女の波恵、次女の真弓、その弟の弘史だ。

近くの河では、オリンピックのボート競技が行なわれることになり、候補選手たちが練習に励んでいる。同じ街の中学生、町子と加代は、ボート競技の選手候補の青年アキラと知り合い、揃ってひと目惚れ。アキラをめぐって初恋の鞘当てがはじまるなか、波恵・真弓姉妹や仲間の子どもたちがボート選手のための応援団を結成することになる。デザイナーを目指す加代がユニフォームのデザインを、ダンスが得意な町子が振付をして、チアリーディングのチーム「ビッグリバーズ」が誕生する。

一方、この土地は、昔むかしから、河の氾濫で水害が繰り返され、それを乗り越えて人々が暮らして来た歴史があった。
へび(青大将)に「みっちゃん」と名前をつけてこっそり箱のなかで飼っていた川上鉄工所の弘史少年は、その「みっちゃん」の不思議な導きで、遠いむかし、「おみつ」という女の子が、大水を鎮めるために、土地の守り神になるといって、ひとり入水した悲劇を垣間見ることになる。

経済成長の時代の希望とオリンピックの活気に沸く昭和39年の子どもたちや家族の姿と、はるかむかしにあった(かも知れない)人柱譚とが交錯するストーリー。戸田や荒川という地元の風土をふまえて、オリンピックではスポーツの舞台になる大きな河が、かつては人々の暮らしと密接に関わり、水の恵みだけでなく、ときに水害を起こしてひとを苦しめたというエピソードの挿入が、楽しいミュージカルを引き締めて、過去の人間の営みへと観客の気持ちをいざなう。

市民ミュージカルがここまで面白いのか、と思ってしまうくらいによく出来たレベルの高い舞台で、私のような、戸田市民でもない全くの一般客が、純粋にエンターテインメントとして楽しめて感動も得られる。じつに、傑作。

最後が、小椋佳作詞・作曲のテーマ曲に収斂されて、オールキャストでうたい上げる結末はアルゴミュージカルを彷彿とさせるが、90年代前半のそれらと較べても「ザ・リバー」は洗練されている。

ことに、私は、かわいい女の子が人身御供になるといったお話は大好きなので、けなげな「おみつ」が水神のいけにえとして選ばれ、その運命を受け容れて人柱に立つ展開には、胸が熱くなった。


それにしても、出演者たち(川上宗男役の内田巨輝さんはプロの俳優として知られていたひとだから、別としても)が総じて上手いことに、おどろかされる。市民ミュージカルの域を超えている。たとえ演技等に巧拙のばらつきがあっても、作品や楽曲のよさがそれを問題にさせないのもすばらしい。

達者なキャストが多いのは、約半数が、2006年公演にも出演していて、経験を重ねているせいもあろうか。前回公演よりも年齢が上の役にステップアップしたり(町子役の女の子は、2006年公演には川上波恵役で出演していたとのことだ)、前回演じた役をさらに深めたりして舞台に立つキャストの存在が、このミュージカルを質の高いものにしている一因といえそうだ。


なんといっても、「キャッチ、ロー」や「Big Rivers 1964」などの、子どもたちのアンサンブルで見せるシーンやナンバー、そして躍動感あふれるチアダンスが、まさに圧巻!眼福というべき。

子どもたちのいかにも昭和な衣裳が、愛らしい。


市民ミュージカルなので、以下は、役名で書くが・・・

子どもキャストでは、赤組の川上真弓ちゃんがとってもかわいかった!ほっぺがピンク(←メイク)で!所作にメリハリがあって、ダンスも溌剌と元気で見映えがよく、この子を見られたことが、いちばんの収穫。「けんだま」やってたね。

テクニカラーでファーストキス!」をうたう町子と加代の中学生ふたりが、上手な上にかわいくて、それはもう魅力たっぷり。あまりの上手さに、この子たちは、いったい何者か?と思ってしまう。

川上波恵ちゃんは、赤組の子も青組の子も愛嬌があって、はきはきとセリフをしゃべり、好感度ばつぐん。

おみつを演じた女の子は、1回目より2回目のステージのほうが情感が増した。(子どもは同じことを続けてやると、2度目には緊張感を失くすケースがあるけれど、そうならずに) きれいなうた声を聴かせて、2回目は役の雰囲気も少し濃くなった。アマチュアの舞台とはいえ、シンの役を演る子は、かくあるべしと思う。

青組の弘史役は、女の子がキャスティングされていたが、まるっきり男の子としか見えないほどのはまり役。


波恵、真弓、弘史、お染=おみつの妹の4役がダブルキャストになっていたが、昭和39年のシーンでは、役によって衣裳が決まっている訳ではなく、2回とも同じ衣裳で出演して、役だけが替わるというやり方をしていた。
たとえば、こういうことだ。1回目のステージでの波恵ちゃんと真弓ちゃんは、2回目のステージでも同じ扮装で出演しているが波恵と真弓ではなく他の子ども役になっている。ダンスシーンなども、同じ役のもうひとりの子と立ち位置が入れ替わっていることもあれば、同じポジションのままのときもあって、そのあたりの立ち位置の異同は見ていて面白かった。また、メインの役のときはダンスシーンでも付けていたマイクが、子ども役のときにはなくなる、など。


公演パンフレット(二つ折り4ページ)は、入場の際に無料配布。

客席は、1階席中央ブロックの中ほどに来賓・招待のためのスペースが取ってあり、両サイド端っこの一部座席は着席不可の表示があって未使用。入場の列に並んでいたとき、チケットは売り切れ、という声も耳にしたが、開演直前でも、2階席には充分余裕があるようだった。このあたりの事情は私には分からないが、一定の人数までしか販売しなかったのかしら?


ところで、「休憩なしの1時間30分」というのは、本格的な市民ミュージカルを創る場合の標準的な上演時間でもあろうか。…今年に見た、市民参加のミュージカル「あいと地球と競売人」も「カーソル」も、表示されていた上演時間が同じだった。

今夏、青山劇場での「あいと地球と競売人」は、市民ミュージカルとしてはスケールの大きな舞台だったが、子どもたちは「あいちゃん+アンサンブル」だった。この「ザ・リバー」には、子ども出演者に、しどころのある役がいくつかあり、それを演じる子たちのレベルも高く、キャストの魅力が粒立っている。観劇後の数日、「ザ・リバー」の余韻を味わいつつ、両者の対照や特長のちがいをあれこれ考えるなどしていた。

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[追記]
2008年市民ミュージカル「パック・ザ・リバー」の雑感は、
  →
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20081218/p1