東京スウィカ文月公演「東風コチ 夕立 土用波」を観劇


7月1日(日)に、東京スウィカ 文月公演「東風コチ 夕立 土用波」(作・演出:比佐廉)を観劇。この日は、2時開演と、6時開演の2回公演あって、2回つづけて見たが、舞台は、期待以上におもしろかった。

このカンパニーのステージを見るのは、はじめて。子役を使うことの多い小劇団という認識だった。(東京スウィカの舞台を踏んだ子役がふたり、その後、映画やドラマで大役を射止めている)

会場は、赤坂レッドシアターという、出来てまだ間もない小劇場。地下鉄の赤坂見附駅から数分の、地階にある劇場だ。座席表を見ると、キャパシティは、176席。
ただし、「東風コチ 夕立 土用波」では、一列目を撤去して張り出し舞台にしてあったようで、B列が最前列になっていた。


開演前のアナウンスによれば、上演時間は、1時間45分(休憩なし)。じっさいは、もうちょっとかかっていたのではないか。

古本屋を営んでいたがすでに店を仕舞い、いまは細々と注文だけを受けているこの家の父親、野々村博(竹内正男)。同居している物書きの長男、野々村陸(比佐一成)。その妻、野々村佳美(もりちえ)。長男夫婦の娘、野々村文香(田中彩瑛=子役)は、小学4年生[パンフレットでは8歳になっているが、セリフでは4年生だ]。
野々村博には、長男の陸の上に、すでに嫁いだ長女の波(山素由湖)と、次女の優(吉田羊)がいる。長女はパート勤めに忙しいが、夫の岡崎さとる(堀本能礼)が大手企業を退職したために急に社宅を出ることになり、荷物と、中学3年生で受験を控えた息子、岡崎苑生(中根大樹=子役)を、一時預かってもらうために、夫とともに実家を訪れる。次女は、夫の原田英次(西嶋達矢)が営むサーフショップの屋上にテントを張って、ビーチサイドカフェという海の家をやっていて、実家に始終出入りしている。野々村家とも親しい、商店街の写真屋の息子、幸太郎(荒木健太朗)が次女の店を手伝っている。

以上、10人の登場人物が織り成す家庭劇。文香がランドセルを背負って帰って来る、一学期の終業式の日からの数日の、夏のお話だ。

ステージは、舞台奥の庭からも出入り出来るかたちの居間。下手のソデが古本屋の店で、客席からは本棚が少し見える。また、上手のソデ側に台所と玄関があることが分かる造り。下手寄りの奥には、2階へつづく階段があって、上手の高い位置にはふうちゃん(文香)の望遠鏡があるバルコニー(セリフではテラスといっていた)。

次女夫婦は、男の子を海の事故で亡くしていて、その命日がやって来る。長女夫婦は、夫が会社を辞めたことをきっかけにわだかまりが顕在化している。長女夫婦の息子、苑生が、次女の店を手伝っているときに、ちょっとした事件が起き、ひと波乱がある。最後は、雨降って地固まるがごとくに、劇中に散らばっていたピースがきれいにハッピーエンドにおさまる展開。そのラストは、いささかおさまり過ぎな気もするが、でも、とってもよく出来ている芝居だと思った。

この芝居は、細かい道具立てが上手く効いているのが、いい。長女が携帯電話を持っているから、時代は「いま」なのだろうが、黒電話が鎮座していたり、古ぼけたラジカセが使われたり、じいちゃん(野々村博)と孫娘(文香)が将棋を指したりする、懐古的な味わい。聞き返すときは、「うそ?」というより「ホント?」というほうが失礼がないとか、分からなかったら辞書を引く(あれ、広辞苑だったよね)など、じいちゃんが孫をさりげなく教える会話の妙。子どもがひとりになれる、あるいは子ども同士でいられる場所としてのバルコニーの位置付けなど。

子役がふたりともナチュラルで、好感度の高い演技。


文香役の田中彩瑛ちゃんは、めがねをかけて、髪の毛はひっつめてふたつに結わいて、ピンクのヘアゴム。前髪をパッチンどめでとめていて、それが水色で、途中でピンクになって、また水色に戻る。日が替わると、ちゃんと服も替わって、いちど、バルコニーでパジャマのシーンがあって、そこでは髪をほどいて、めがねも外していて、雰囲気がちがって見えた。
「東京スウィカの稽古場日記」(http://ameblo.jp/tokyoswica-blog/)という公式ブログに、田中彩瑛さんの稽古場写真もいくつか出ていて、それとPR動画を合わせて見れば、ほぼあの感じである。

少しセリフをうたうようなところが、独特の抑揚になって、かわいい印象を与えていた。「子役」のかわいさとはちがう、「子供らしいこども」の魅力、愛らしさが、よく出ていた。


同じ日に、2公演つづけての観劇だったが、2時開演のステージのほうが安定感があったかな(お客さんの入りも、2時のほうが盛況。6時のステージでは、セリフをいい直したりと、セリフが引っかかり気味の役者さんが多かった。その反動なのか、一部シーンでの迫力が増していた)。


なお、タイトルになっている、東風(こち)、夕立、土用波は、いずれも、文香が宿題のために集めている夏の季語。

見やすくて、いい劇場だと思ったが、客席が暑かった。ここ1、2年は温暖化対策なのか、冷房を抑え気味の劇場が増えているから、これは仕方がないのか?




関連の過去ログ
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070601/p5