「謎帯一寸徳兵衛」「魚屋宗五郎」千秋楽



5月25日は、前進座創立75周年記念5月国立劇場公演の、千秋楽を観劇。



結局、今公演では、黒沢ともよちゃんには当たらず(残念)。

で、「謎帯一寸徳兵衛」の団七娘お市は、桑島由布里さんだったが、セリフが様になっていて、また、ここという場面で表情を出して、なかなか上手い。序幕のお市ちゃん、びいどろのかんざしはちゃんと買ってもらえたのかな。



桑島由布里さんって、他には何か出ているのかと検索してみたら、ヒットしたのは自分のサイトで、苦笑。昨年は、新橋演舞場でのスーパー歌舞伎ヤマトタケル」に出ていた、と。



前進座で、子役の顔(メイク)をしているひと、上手だね。お市の化粧がとってもきれいで、かわいく見える。



「謎帯一寸徳兵衛」は筋のまとめ方がよく(改訂: 小池章太郎)、楽しめる。

大島団七(嵐圭史)の悪党ぶりは、男ならこんな生き様もまた一興、と思わせて魅力に富む。お梶とお辰の姉妹を二役(&早替りもあり)で演じる河原崎國太郎は、どちらかといえばお梶がいい。幽霊顔というのか、化けて出たら似合いそうな女形なので、入谷田圃の場では、団七の弑虐を誘う雰囲気がある。えびぞりもかたちよく極まり、魅せる。そもそもが、仇討のために夫婦になるという無理から起こった悲惨でもあり、それをさもありなん、と思わせた。

中村梅雀の吾妻屋徳兵衛が、きっぱりとして口跡もよく、格好いい。深川吾妻屋の場で、団七に向かっていうセリフ、

その言い訳は、くらいくらい

ってのが、えらく気に入っちゃった。

(誰れかに向けて、いちどいわなきゃ気が済まないぞ、こりゃ(笑))



途中の、中村梅之助による「口上」では、前進座75周年、国立劇場開場40年の他に、この日は都民劇場のお客さんが入っていたらしく、都民劇場も60周年と紹介していた。



「魚屋宗五郎」は、芝片門前魚屋内だけにしぼっての上演は、物語に広がりがないと思った。酔態を見せることに比重が傾いて、喜劇のようでさえある。あれを見て素直に笑えるひとはいいが、私はかえって白けた。おなぎ(山崎杏佳)からいきさつを聞かされるときの、宗五郎(梅之助)、おはま(瀬川菊之丞)、太兵衛(山崎竜之介)らのリアクションも大仰過ぎやしないか。配役変更があった若い者三吉は中村靖之介が演じ、かつての持ち役とのことで、これはもうあきれるほどの上手さ。まさに至芸(が、いかんせん「若い者」ではなかった)。



前進座の歌舞伎は、大歌舞伎と較べて役が少なく、そこに違和感もある。昨年見た「佐倉義民伝」では子別れの子役がふたりだった(娘がいなかった)し、この「魚宗」では、菊茶屋の女房は出るが娘が出ない。ここでの茶屋の娘というのは、死んだおつたの仲良しだったという設定だから、出て来ることに意味があるはず。



また、大歌舞伎の「魚宗」は、宗五郎の花道からの出で、宗五郎が鳶と行き会い、言葉を交わす。宗五郎の妹が死んだと聞いて、皆に知らせようとする鳶の者を、宗五郎が止めて、表沙汰にしていないから知らせないでくれというところで、客席に状況が伝わり、戒名だけをもらって帰って来た宗五郎の心の内が察せられるという訳なのだが、前進座の「魚宗」には鳶の者が出ず、このやり取りがないのも、芝居としての奥行きを欠くものだ。



来年には、梅雀の宗五郎、嵐広也の三吉での上演が予定されているようだから、今回観劇出来たことは幸いだったかも知れず、私の好き嫌いはともかく、記憶にとどめておきたく思う。



千秋楽とあって、都民劇場からの花束贈呈があり、カーテンコールが付いた。おなぎ、三吉、おはま、太兵衛に、花道から、引っ込んだばかりの宗五郎が本舞台に戻って来て、梅之助丈が花束を受け取り、拍手のなか、あいさつ。宗五郎役はこの日の千秋楽で、通算405回演じたとのこと(5月22日夜で400回だったから、勘定もぴったり!)。



カーテンコールでは、定式幕ではなく、緞帳が下りて、これぎり、となりました。