「簪マチ子 幸せのとなり」雑感(おもんちゃんは、幸せになれるのか)


(2003年)芸術座の、9、10月公演
「簪マチ子 -幸せのとなり-」

を見た。

銀のかんざしを狙って掏り取る謎の女スリ "簪マチ子"の、幸せとすれちがう哀しい運命を、佐久間良子さんが演じる座長公演。


女性客をターゲットにした芸術座のお芝居とは承知の上の観劇だが、展開に起伏がとぼしく、退屈の感は否めない。

ラストシーンの佐久間良子さんの存在感は見事だし、主役の貫禄も充分だが、スリという役柄の「軽み」のようなものが見られず、役柄や設定が必ずしも活かされていない印象。
結末からして、観劇後は、なんだか重たい気分に。

それでも、舞台として見せてしまうのは、出演者がみな達者だから。とくに、男優陣が揃っていい感じだ。 が、難をいえば、演じなれた役どころで手堅く演じているようであり、配役の意外性や新鮮さには欠ける。
恋人役の田中健さんは、誠実な人物だが何か訳あり、
マチ子の稼業を影で支え、ときに男気も見せる系図屋に松山政路さん、
マチ子に好意を寄せる、おひと好しの新米刑事が植草克秀さん・・・
テレビか映画か、あるいは他の舞台でか、いずれも過去に演じていそうなおなじみの役柄に見えてしまう。


第二幕の中盤、"簪マチ子"が、里子に出したきり、生き別れとなっていた娘・おもんに会いに行くところから、舞台がようやく劇的になる。
おもん役の子役がいいアクセントだ。

下里翔子さんが演じるおもん(ダブルキャストで、もうひとりは石川楓ちゃん)は蕎麦屋に買われて、こき使われている身の上。
(リトル・コゼットのときはテナルディエの宿屋でこき使われ、大きくなったらなったで蕎麦屋でこき使われて、元リトコゼはかわいそうなのだ・・・(笑))

健気なおもんが登場し、蕎麦屋でお運びをするシーンは、小気味よく動いて段取りを感じさせず、動き回るだけで、舞台のトーンが変わるよう。

突然目の前に現れた実の母親に戸惑うおもんは、迎えに来たマチ子を拒絶する。やっと再会した母娘の行く末もはらんで、物語は終幕へ。
佐久間良子さんがおもんの髪に、かんざしを挿してやるあたりは、この舞台のいちばんの見どころだ。


それにしても、さて、おもんちゃんは、どぜう屋では幸せに暮らせるのだろうか。(あー、もう心配で、夜も眠れないや)


他に、赤木春恵さん、中田喜子さん、森宮隆さんらの共演。
上演時間は・・・2時間50分(一幕 60分/休憩 25分/二幕 85分)

公演プログラムは、1000円。スタッフには「手品指導 駒田一」と、9月まで帝劇に出演中の俳優、駒田一さんが名を連ねている。


ところで。・・・石川楓ちゃんの出演は早くから知られていたが、もうひとりのおもん役が下里翔子さんとは知らずに見に行ったので、プログラムを見て、わくわくしてしまった。が、おもんちゃんの登場までが長いこと長いこと。

下里さんといえば、私がいちばんたくさん見たリトコゼだ(菊池ユミちゃんもずい分見たけど、下里さんのほうが多いはず)。今井仁美さんと組んでいて、97年は帝劇に行くと、あ、また下里さんがちびコゼだ。(で、今井さんがリトコゼをうたうのにはいちどしか当たらなかった)

東宝のミュージカル「レ・ミゼラブル」は、最近、公演回数が1800回を超えたとのことだが、かつて、記念すべき(?)1000回目の舞台で、リトル・コゼットをうたったのは、他ならぬ下里翔子ちゃんであった。




このエントリーは、2003年9月8日(月)に書いたテキストを転載したものです。