女子高生と創る「師走やぶれかぶれ」(キラリ☆ふじみ マルチホール)


3月25日(木)〜28日(日)に、富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ マルチホールで上演された、

田上パル×女子高生×キラリ☆ふじみ 2本立て公演
女子高生と創る「師走やぶれかぶれ」
新作本公演「新春やぶれかぶれ」

のうち、女子高生と創る「師走やぶれかぶれ」(作・演出:田上パル)を見た。

 過去ログのこれ。→http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20100104/p1


黒木唯:尾崎桃子
松本真由:岡美希
前永祐子:坂本汀
竹田梨花:池田碧水
谷口ひとみ:大竹このみ
黒木智代:宮田道代(さいたまゴールドシアター)
福永卓:糸山和則
海老原三千男:安村典久
海老原睦美:松本捺美


キラリ☆ふじみへは、昨年、「グランド・フィナーレ」を見に、3度赴いたが、それ以来の来訪。鶴瀬の駅からはタクシーで、往きは710円(初乗り料金)だったのに、帰りは980円かかった。

「師走やぶれかぶれ」は、全席自由で、1000円という廉価公演だが、会場は私鉄の駅から中途半端に遠い、不便な場所で、しかも、富士見市といえば、同じ埼玉県内なのに、電車利用だといったん池袋に出るか、川越を経由しないと行けないという、都心へ出るよりも遠い道のり。


3月26日の午後3時開演。上演時間は、1時間40分。終演後、少し時間をおいて、この日はアフタートークがあって、これが終わったのが、5時10分になるかならないかくらいだった。

私はてっきり、オーディションで選ばれたという女子高生5人は揃って女子高生と創る「師走やぶれかぶれ」に出るものとばかり思っていたが(結局、5人とも出演してはいたが)、そうではなくて、女子高生と創る「師走やぶれかぶれ」のほうには4名が、もうひとつの演目「新春やぶれかぶれ」に1名がキャスティングされていた。

ただし、この2本立てのふたつの芝居は、隣同士のそれぞれの家が舞台になっていて、劇中の時間の一部が重なっていたり、はしご(脚立)で両家がつながったり、ふたりの登場人物は両方の芝居に出て来るなど、表裏のようにリンクしているらしい。(「新春やぶれかぶれ」の登場人物である)隣家の次男と三女が「師走やぶれかぶれ」にも登場し、その隣家の三女を女子高生キャストが演じているので、結果的に、女子高生出演者が5人とも出演してはいた訳である。


ホール客席に入ると、固定座席のすぐ前にセットがあって、小劇場並みの舞台の近さにおどろく。というのも、「グランド・フィナーレ」では、ステージ部分と固定座席との間のスペースが空けたままで上演され、不可解な距離のある設営だったが、今回は、その空いていたスペースに「師走やぶれかぶれ」のセットがあり、本来のステージ部分には2本立てのもうひとつである「新春やぶれかぶれ」のセットが置かれていた(?)ようだ。

「師走やぶれかぶれ」の開演前には、昨年末の「紅白」の放送(こども紅白のあたり)が聴こえていたから、舞台の上の日付は、2009年の12月31日だ。


卒業後は東京の大学に行くことになっている高校3年生・黒木唯の部屋が舞台となる。唯の目下の懸案は、幼なじみの彼氏、庭師の跡取りである福永卓との今後をどうするかだ。福永卓も彼女をどう引き止めようかと考えている。そんな大晦日に、同じハンドボール部の3年生、松本真由と前永祐子が追試の勉強をするといって押しかけて来る。ふたりが留年すると、ハンド部の推薦枠がなくなって妹の入学が危うくなるという同部OGの谷口ひとみに追試対策を強要されたためだ。女子ハンドボール部の2年生、竹田梨花も、そのとばっちりで黒木家へ連行されて来た。唯の部屋の押入れには、成り行きから祖母の黒木智代が隠れているし、隣家の不穏な浪人生、海老原三千男は唐突に乱入し、各人の飛躍した思惑が絡みながら、大晦日の夜は混乱する。

振り返って考えれば無理筋の多い不条理的ドタバタなのに、ものすごく面白いのは、格闘的シーンを含めたアクティブで激しいキャストの動きとセリフの応酬から生じる高揚感と、ひと部屋の内外で起こるめまぐるしい展開、笑いのツボをくすぐる設定や会話の可笑し味がよく効いているからで、場所を熊本にして、方言を使っていることも、奏功している。標準語で演じられていたら、醒めた見方をしてしまったかも知れない。

終演後のロビーで上演台本を500円で売っていたので買ったのだが、舞台を見て感じたよりもセリフの量が多い。この芝居は、舞台上の役者の動きが激しいせいで、観劇中は、セリフよりも動きのほうに意識が行っていて、セリフの量が実感出来ていなかったことに気づかされる。


もともとは男性出演者の高校生役で上演されたものを女子高生バージョンとしてアレンジした作品だそうだ(男キャスト版は、想像しただけでも暑苦しそうだ)が、こういう動きの激しい芝居はほとんど見たことがなかったから、とても新鮮だった。あれだけ動くのは、ただごとじゃないし、ものも食べる。たとえばコンビニで売っているそばなんて、普段でも上手く食べるのは難しいだろうに。


演出家と女子高生5人(&司会=キラリ☆ふじみのひと)が出てのアフタートークによれば、5人の高校生キャストは、応募者28人のなかから選ばれたとのこと。5人のうち、3月の時点で、3年生ふたり、1年生が3人。チラシには、いずれも埼玉県立芸術総合高校の生徒だとあった。

埼玉県立芸術総合高等学校って、所沢にあるのね。(新しい学校については全然分からない)
http://www.geiso-h.spec.ed.jp/


ところで、この芝居は、平田オリザなどのいわゆる静かな演劇を、わざと逆に、過剰にハイパワー化したものと見ていいのかな?えがかれているのは、大晦日の夜のひとときに過ぎない訳だから、この芝居から過剰さを取り払ってしまえば、同じ範疇に入るはずだ。


昨年は、同じ時期(3月下旬)に、静岡の女子高生による飴屋法水 演出の「転校生」を見たが、今年は、キラリ☆ふじみで田上パル。いずれも、キャストが女子高生だからこその観劇。2年続けて、春に、面白い芝居を見て思うのは、

女子高生の「演劇力」というのは、なかなかすごい。