バレエ シャンブルウエスト第54回定期公演「おやゆび姫」


10月12日(金)に、八王子市芸術文化会館 いちょうホールで、バレエ シャンブルウエスト公演「おやゆび姫」(全2幕)を見た。これ。→http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070908/p6


いちょうホールは、はじめてだったが、中央線の八王子駅北口から頭に入れておいた地図の通りに歩いて、迷わずに着いた。

キャパシティ802席のホールだが、東京ニューシティ管弦楽団の生演奏でオケピット使用のため、前3列が撤去されていて、D列が最前列になっていた。


午後6時30分開演。幕間を含めて、2時間弱の上演時間(ロビー掲示のタイムテーブルより長くかかった)。

プログラム(1000円で販売)によれば、「おやゆび姫」は、シャンブルウエストのオリジナル作品。2006年の清里フィールドバレエのために創られ、アンデルセンの童話から、今村博明・川口ゆり子の演出・振付でバレエ化したもの。音楽は全てモーツァルトの曲で、ピアノコンチェルトを中心にした計28曲のセレクトで、江藤勝己の選曲。


おやゆび姫が花のなかから生まれるところからはじまって、ツバメの背に乗ってモグラの前から飛び立つまでが第一幕。その後、花の国へやって来たおやゆび姫が、王子と結ばれるまでが第二幕。第一幕はストーリー性に富み、第二幕は主に踊りを見せる趣向。とくに第一幕は、童話の世界を分かりやすく表現していた。どこか主体的でない、周囲の思惑に翻弄されていたおやゆび姫が、ツバメに乗って飛び立つシーンは、新しい未来への旅立ちを思わせ、そこで第一幕を了としたのが、上手い構成。


シャンブルウエストのバレエ「おやゆび姫」は、王子と結ばれるハッピーエンドな童話の世界の舞台化だから、おやゆび姫をヒロインとした展開を楽しんでいいのだが・・・見終えて後、帰路の電車に揺られながら、かなり記憶があやふやになっていた原作童話のことを思い出そうとしていたら、おやゆび姫とツバメの関係が妙に気になって来たので、翌日、手っ取り早いところで、青空文庫を検索して「おやゆび姫」の翻訳を読んでみた。

なるほど、アンデルセンの童話「おやゆび姫」というのは、おやゆび姫が主人公ではあるが、むしろ、おやゆび姫と関わるキャラクターたちのほうが、より人間らしく書かれている印象だ。

おやゆび姫は、ヒキガエルの息子やモグラの妻になることを拒み、自分を助けてくれたツバメの想いに応えることもなく、花の国の美しい王子にひと目惚れしてその求愛をあっさり受け容れる。

花のなかから生まれたおやゆび姫が花のなかに棲む王子と結ばれる結末は予定調和的で辻褄は合っている。が、そこに到るまでに、気の利いたこともいえないみにくいヒキガエル、金持ちで頭はいいが独善的なモグラを登場させ、彼らは揃ってソデにされる。前者は口下手で容姿に優れない者のたとえかも知れないし、後者のモグラの姿は、いくらお金があってもあるいは博学でもそれだけでは他者の愛を勝ち得ることは出来ないという現実の投影と読める。好意を抱き合ったツバメでさえも、最終的には、鳥という異形の者である。それでも王子と結ばれたおやゆび姫を祝福するツバメの態度はとんだシラノというべきで、親切でいいひとだけれど結婚相手としてはちょっと勘弁、みたいな存在にされてしまうのだ。

作者アンデルセンの恋愛経験やコンプレックスが反映しているらしいが、そう思って読むと、決してハッピーエンドではない、なんだか哀しいお話でもある。

もちろん、今回のバレエ鑑賞ではそこまで考える必要はなく、公演プログラムにあるように、多様な愛のかたちというポジティブな見方で踊りを楽しめばいいのだろう。が、原作の童話を読み返してみると、西洋の童話というのはなかなか一筋縄ではいかないなぁ、と改めて思わされる。