時代の証言者 中村吉右衛門 16



読売新聞朝刊に連載の「時代の証言者」

歌舞伎俳優 中村吉右衛門の第「16」回(5月31日付)は、『「創造の心」刺激され脚本書く』





金丸座に出て、痛感したのは、『歌舞伎芝居は芝居小屋が一番似合う、ということです。

 また芝居を作る方も、芝居小屋の方がイメージしやすいのではないでしょうか。

 金丸座で試演して、それで歌舞伎座に合うように手直しした方がよりよい歌舞伎作品になるのではないか、と思いましたね。




1985年の第1回こんぴら歌舞伎大芝居で「再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)」を書いた吉右衛門は、その後も先祖の名、松貫四で脚本を手がけた。厳島神社での「藤戸」、金丸座舞踊公演での「巴御前」、昨年のこんぴら歌舞伎での「日向嶋景清(ひにむこうしまのかげきよ)」



古典を守ることと、新しく創造することが、役者の仕事の両輪だが、「再桜遇清水」を書いたことで、『創造する方の気持ちが刺激されたのですね。ただ、役者ですから最初からすべてを自分の発想で作ることは出来ません。こうすると役者はやりやすくなる、流れがよくなる、ということは経験で分かりますので、脚色だけをしています。



1998年、厳島神社特設舞台での宮島歌舞伎で初演した「藤戸」は、『構成だけ考えまして、脚本は書いていただきました。

吉右衛門にとって野外での公演ははじめてだった。

 『初日は雨が降っていましたが、開演30分ほど前にぱっと上がって、しかも月がさしたんですよ。直前まで中止するかどうか、などと話していただけに、うれしかったですね。



「藤戸」は、この6月に歌舞伎座で再演される。『背景を松羽目(能舞台を模して松を描いた背景)にしてもらうことにしました。原作が能ですから。







・・・「六月大歌舞伎」の筋書きによると、「藤戸」は、松貫四構成、川崎哲男脚本。厳島神社での初演は、平成10(1998)年5月7日〜9日。(吉右衛門は)老母藤波と、後シテで藤戸の悪龍を演じた。老婆の役は、このときがはじめてだった、とのこと。