殺陣師段平



13日(土)に、THEATRE1010で、劇団青年座の「殺陣師段平」(長谷川幸延 作、鈴木完一郎 補綴・演出)を観劇。



沢田正二郎新国劇で、旧劇(歌舞伎)のそれとはちがうリアルな殺陣を生み出した殺陣師、市川段平を津嘉山正種が演じる。すでに2004年に上演していて、今回は再演の巡演中で、THEATRE1010での公演は青年座の主催。



午後2時開演。15分の休憩を挟んで、2時間25分の上演時間。



「殺陣師段平」は、はじめて見た。他の舞台や映画でも見ていない。さて、どんなすごい殺陣が見られるだろう、と大いに期待して出かけたが、そんな期待は的外れなものだったようだ。



退屈な舞台で、どこといって見どころがない。(主演の津嘉山正種も、テレビドラマや過去に見た商業演劇の舞台の印象のほうがいいくらい)

期待の殺陣も大したことなく、肩すかしを食らった感じだ。新劇団の殺陣はこんなものかと、見ていて消化不良。歌舞伎の旧い立ち回りから脱して写実の殺陣を創ったという人物が主人公なのに、この舞台で演じられる殺陣が、現行の歌舞伎と較べたら、はっきり見劣りのする内容だったのは皮肉なことである。



休憩後の冒頭、東海道の巡業先のシーンで、地元の興行師だか小屋主だかが、みんな殺陣が見たいのだから殺陣のある芝居を上演してくれとしくこく頼み込む場面がある(が、沢田正二郎は、新国劇は殺陣だけではないとして突っぱねる)。観客としての私は、まさにこの劇中の興行師たちと同じ気持ち。段平がつけたという「国定忠治」や「月形半平太」の殺陣をやって見せればいいのにと思い、かんじんなものが出ない舞台に、欲求不満が募る。



旧いタイプの作品で、大衆演劇のレパートリーだから、役者で見せる部分がないと平板になり、説得力にも欠ける。いわゆる商業演劇や座長公演なら、看板俳優が演じるこの役、スターの演じるあの役が自ずと見せ場になるかも知れないが、そうではないから、芝居全般が小ぢんまりして見え、さらに冗長だ。新劇団が手がける娯楽作品は、こんなにもつまらないのか、と思い知らされた。



脚本の問題だろうが、沢田正二郎は喧嘩で大立ち回りをするよりも、国定忠治月形半平太に扮して殺陣を披露すべきだ。件の喧嘩から段平がリアルな殺陣の発想を得たのだとしても、インテリ役者である沢田正二郎がチンピラを相手に大立ち回りで巧みな杖さばき、かすり傷ひとつ負わないスーパーヒーローぶりは、(たとえ沢田正二郎の実像が然りであったとしても)芝居としてちっともリアルじゃない。これが商業演劇なら、有名俳優や格のある役者が演じることで、もっともらしく思わせてしまえる訳で、虚構のなかのリアルというのは、そうしたもっともらしさにあるのではないのか。



公演プログラム、600円。



青年座の舞台を見るのは、これが最初で最後になりそうだ。





・・・たとえば、杉良太郎の「殺陣師段平」は、どんなだったのかと思う(6月にテレビ放送があるようだが、私は見られる環境にないのが残念だ)。