ミュージカル座公演「ジュニア」(中目黒キンケロ・シアター)

ミュージカル座2月公演

「ジュニア」

脚本・作詞・演出:竹本敏彰、作曲・編曲・音楽監督:玉麻尚一、振付:柴崎咲子

2月23日(金)の昼公演を見た。

午後2時開演。

ジュニアキャストは、月組がメインの回。

上演時間は、1時間45分ぐらいだった(休憩なし)。

公演プログラムは、500円。


ジュニアの役は、12役で、ダブルキャスト(シングルキャストが2役あり)になっていたが、舞台には、22人全員が出演していた。

役付きの出演ではない別組のジュニアキャストたち10名は、最終審査の前に落ちるオーディション参加者の役での出演。この「ジュニア」という舞台は、文字通りのジャパニーズ子役版「コーラスライン」なので、別組の子役たちが演じるのは、「コーラスライン」でいえばロイとかトリシアとかブッチなどなど・・・の役々に相当すると思えばいいだろう。

キャシーが踊る場面を思い起こさせるような、可動式ミラーを使うシーンがあったり、ジュニアたちが顔写真を持ったり(この舞台では、履歴書の写真ではなくて、ジュニアたちの幼い頃の写真であるが)など、いかにも「コーラスライン」のパロディ的な演出も目を惹く。


ファイナリストのジュニア12人のステージでの並びは、役のクレジットの順に、ステージの上手から下手へ。つまり、上手から順に、

山本咲良(阿萬はなね)
高梨杏(黒川胡桃)
瀬戸きらら(高橋美波)
南亜依里(本田真彩)
二ノ宮小春(中村茉稟)
森和奏(森村珠子)
梶朱音(立花美愛)
長谷川柑奈(山口のん)
生駒笑(野呂桃花)
水谷亜斗夢(山口れん)
片桐騎士(松本涼真)
鈴木周太(桑原柊)

である。


上演を重ねて来た著名ミュージカル(原作ものの冒険ファンタジーなのかな?)が、新たな演出家を迎えることになり、その演出家では初めての子役オーディションという設定。コーラスラインさながらに、演出家に促された子役たちが自身のことを「語る」のだが、その途中には審査の一環として、作品の一部シーンが、演出家に指名された子役たちによって何度か演じられる。そんな劇中劇の使い方は、同じ作・演出の「トラブルショー」や「ニッキー」でも見られた作劇。

12人のジュニアキャストはいずれ劣らず、達者。とくに、今回の月組のキャストは、有名ミュージカルにメイン子役で出演したりジュニアミュージカルで主演経験のある子が、半数を占める。たとえば、ニッキーだけでも3人いる。

舞台の設定自体が、ファイナリストになった(最終選考に残った)だけでもすごいことらしい人気ミュージカルのオーディションということになっているから、12人がいずれも上手いのは当たり前で、下手ではドラマが破綻してしまう。出演者の子役たちに、スキルはもちろん、それなりの芸歴や経験があることも、演じる役柄の説得力になっているし、この舞台のおもしろさを支えている。

出演者に当て書きしたのかと思う役があるし、登場人物のジュニアたちが語る中身は、演じている子役本人の経験とどの程度重なっているのか、いないのか。そんな興味を喚起させるエピソードが散りばめられていて、虚実の狭間へと見る側の気持ちを引き込む力がある。

ダブルキャストのアニー役ふたりのおなじみのポーズをダンスの振りに入れたり、9000人のなかから28人に選ばれた、などといわせたりと、風刺も効かせている。


鈴木周太はライオンがたくさん出て来るミュージカルでヤングライオンを演じていたとか、片桐騎士(ないと)がバリケードで旗を振るミュージカルに出演したという経歴は、演じている本人の出演作そのものだ。
「ライオンキング」や「レ・ミゼラブル」に出演歴のない子役が演じたら、それだけで嘘っぽく見えてしまうかも。

山本咲良が受けている軍隊式演技レッスンって、じっさいにあるスクールのことを揶揄していると受けとるべきなのかな・・・?

南亜依里の父親は、個人タクシーの運転手。そのタクシーは、娘の送迎が最優先。この日のオーディションももちろんパパのタクシーで。

市民ミュージカルに2年続けて主演、と思ったら、市民ミュージカルなのに同じ子ばかり主役はおかしいとクレームが・・・という生駒笑のエピソードは、誰かの実体験なのかな? 子役活動のために母と上京、父親は応援するといっていたが、結局、両親は離婚。

主役を掴んで全国ツアー。主演も束の間、次は主人公の姉役、その次はアンサンブル・・・長谷川柑奈のように、年が上になるに連れて脇に回り、役がなくなって行くというのは、子役の宿命かも。

姉のオーディションについて行ったら、男の子が足りないからといわれ、オーディションを受けたら、姉は落ちて自分は合格、舞台でうたうとたちまち地元の人気者に。という水谷亜斗夢(あとむ)役の山口れんくんは、プログラムに、3人きょうだいの末っ子だと書いてあったが、姉だけじゃなくて、もうひとり上にきょうだいがいるんだ。


演りたい役の身長制限(140センチ)まで、あと1センチ。身長が伸びないように日々努力をしているのに、また、1ミリ伸びた、と嘆くのは、高梨杏(あんず)。タイトルと同名のナンバー「ジュニア」をコミカルにうたい、演じる。
(余談だけれど、「高梨杏」って、この役名によく似た名前の子役がいるよね・・・)

片桐騎士は、いよいよ最終審査がはじまるというときに、突然の声変わりが来て、声が出なくなり、このオーディションを辞退するべきか葛藤する。演出家は、彼を起用するために、原作には登場するが、舞台には出ていなかった人物を、新たに登場させられないかと考える。

かわいいだけが取り柄、という瀬戸きららは、キャスティングが難しそうな役。単純に考えれば、他の女子キャストよりこの子の見た目がかわいくないといけないのだもの。

12人の群像劇ではあるが、あえて、いちばんいい役は、といえば、二ノ宮小春でしょう。オーディションではいつもいいところまで行くのに、何か足りない、といわれてしまう。芸能は、他者からの評価で成否が決まる世界。オーディションは選ばれなければダメ。自分がどんなにがんばっても、いいと思っても、評価は他者に委ねるしかない。二ノ宮小春の悩みは、芸能の本質と直結している。
ちなみに、劇中、いちばん最後まで舞台にいるのも、二ノ宮小春。

12人のうち、この最終審査で落ちることになるのは、4人で、高梨杏、森和奏、長谷川柑奈、二ノ宮小春。


ところで。

この公演は、8ステージ上演されたが、土・日曜の4ステージのチケットは一般売りには出て来なかったのでは? ジュニアキャストだけでも22人いて、チケットノルマもあったようだし、キンケロ・シアターのキャパシティで8ステージ程度なら、そもそも一般客なんて必要なさそうだけど、でも、最近は、「ビリー・エリオット」のリピーターだった女性ファンが、出演していた男子子役のその後に注目する現象もあるみたいだから、いままでジュニアミュージカルを見ることがなかったお客さんの来場も少しはあったのかな?