市川海老蔵 第三回自主公演 ABKAI2015(シアターコクーン)


6月15日(月)に、シアターコクーンで、

市川海老蔵 第三回自主公演 ABKAI2015

を見た。

演目は、日本昔ばなしをもとにした新作歌舞伎「竜宮物語」と「桃太郎鬼ヶ島外伝」で、どちらも、宮沢章夫脚本、宮本亜門演出、藤間勘十郎振付。

午後1時開演。

「竜宮物語」が、55分。幕間、25分。「桃太郎鬼ヶ島外伝」が、50分で、上演時間は、2時間10分。

公演プログラムは、1500円。


前から5列目の席だったが、ちょうど段差がつきはじめるB列で、とっても見やすかった。

私の席は端のほうだったのでとくに影響はなかったが、この1階B列は、下手寄りの通路際の、7番と8番の席は、「桃太郎鬼ヶ島外伝」で赤鬼(海老蔵)が肘掛けに立って金棒をブンブンとぶん回すので、その前後近辺を含めて臨場感のある、というよりは、むしろ危険が味わえる座席である。


まず、成田屋の部屋子の市川福太郎さんによって幕が開けられると、そのまま、福太郎さんが昔話の案内役になって、鶴の恩返しやら金太郎やら、おなじみの昔話を寸劇仕立てで紹介する前振りがあって、いよいよ「龍宮物語」がはじまる。
そのあと、福太郎さんは、一寸法師(の黒衣)でも登場して、陸(くが)の男を連れに来た龍宮の亀トリオ(市蔵、九團次、弘太郎)との絡みがちょっとある。

龍神の娘だという乙姫(海老蔵)は、亀たちが陸から連れて来た男の心臓を食らうことで生き、龍宮を守り続けて来たが、浦島太郎(市川右近)と出会ったことで、その心臓を食らうことにためらいをおぼえ、葛藤するって話。

だけど、海老蔵丈に乙姫の役は、なんだか似合っていなくて、あんたはどう見ても、浦島太郎なんかを好きになる柄じゃぁないよ、と思ってしまう。かといって、浦島太郎を演じたら、それも変だろうし、いまひとつ主役であるべき人物が適役とは思えない芝居だ。
むしろ、脇のキャラクターがおもしろい。亀トリオの妙にしみったれた感じが可笑しいし、乙姫の側近のうち、綿津見(市川喜昇)に存在感があって、大いに注目させられた。


「桃太郎鬼ヶ島外伝」は、桃太郎に攻めて来られる側の鬼たちが主人公で、赤鬼(海老蔵)、青鬼(市川右近)、黄鬼(弘太郎)、緑鬼(市蔵)、黒鬼(九團次)という5人の鬼たちは、その色分けや設定などが、戦隊ヒーローものを踏まえていて、もちろんレッドが真ん中で、ブルーはそのライバル的なところもある二番手である。ピンクがいない代わりにブラックだが、黒鬼に悪役色はなく、弱虫という設定になっていた。
沢庵を食い過ぎて黄色くなったという黄鬼は、腹の出た食いしん坊で、料理が得意な三枚目。鬼のなかでは、このイエローがおもしろくて、じつに儲け役だ。

「桃太郎鬼ヶ島外伝」は、桃太郎(新十郎)と人間たちに攻め込まれたところで、いちど幕が引かれて、そのあと、幕が開くと、居並んだ五鬼たちがおのおのの死に様を「口上」で述べるという趣向。

福太郎さんは、「桃太郎鬼ヶ島外伝」の最初に、少年桃太郎で出演。終盤には、いったん芝居の幕を引いて、五鬼たちの「口上」へつなげる。その後は、フィナーレの踊り〜カーテンコールに登場。

鬼たちが5人とあって、戦隊ヒーローを踏襲しているだけでなく、「白浪五人男」のパロディにもなっているのがミソ。なのだけれど、設定と役者の演技だけで見せている感は否めず。(龍宮も鬼ヶ島も、昔話のパロディとしては、ひねりが不足というか、アレンジの仕方がいまひとつだ)

市川海老蔵自主公演なのに、海老蔵丈の出番が少な目。いちばん最後に、幕前に残された右近丈が、会主の海老蔵さんより長く舞台に出ています、みたいな挨拶をしたが、じっさい、役者としては、浦島太郎と青鬼のほうが、しどころも多いのではないかな。