仲代達矢が語る 日本映画黄金時代


春日太一仲代達矢が語る 日本映画黄金時代」(PHP新書、780円税別)

http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-80418-7


仲代達矢への全10回、計15時間弱に及ぶインタビューを、著者がまとめたもの。出演した数々の映画や監督、共演者に関するエピソードはもちろん、けっこう複雑な生い立ちも語られている。

月刊「Voice」2011年9月号〜2012年2月号に連載したものに、大幅に加筆・修正したもの、とのことで、実質的には聞き書きである。


いずれも興味深い話ばかりなのだが、たとえば、「切腹」(小林正樹監督)の撮影現場での三國連太郎との演技論争や、本身を使った殺陣。萬屋錦之介にチャンバラでのアドバイスを求めたら、斬る型の基本は「米」の字を書くイメージで斬るのだといわれたという話などはなるほどと思うし、「御用金」(五社英雄監督)で三船敏郎が降板したとき、萬屋錦之介が代役を引き受けてくれた話からは映画スター同士の交友と心意気がうかがえる。

仲代達矢は映画会社と専属契約を結ばず、監督の指名で各社の映画に出演した。同じように、専属にならずに映画に出演していた丹波哲郎とは共演が多かった、と筆者の解説にある。

勝新太郎の降板で出演することになった「影武者」(黒澤明監督)は、最初、信玄役が若山富三郎で、その影武者役に勝新太郎という企画だったが、若山富三郎はうるさい監督は嫌だといって受けず、勝新太郎の二役になったのだというエピソードも語っている。クライマックスで馬が倒れるシーンを撮るのに、北海道中の獣医を集めて、300頭に安定剤と睡眠薬を打った。馬もずいぶん死んだが、馬の下敷きになって何人もが怪我をして、救急車も来たという。たとえ黒澤明といえども、いまならとても出来ないだろう撮影の様子は壮絶で、(睡眠薬で)眠っている馬のいびきが地鳴りのようだったという件りは、読みながら慄然とする。


「鬼龍院花子の生涯」(五社英雄監督)のエピソードは、もういちどあの映画を見てみたくなる内容だし、俳優座時代の小沢栄太郎とのことや、平幹二朗について語っているのも、その内容ともども印象的だ。

俳優は楽器と同じ。役柄、作品によって、声(の音階)を使い分けなければいけない。地声で芝居をするだけでなく「扮する」ことが必要。テレビの時代になって、雰囲気で演じて「物言う術」がいらなくなったが、それではいけない、発声術が必要だという。

とてもおもしろく、全編にわたって読みどころ満載の一冊。