谷桃子バレエ団「レ・ミゼラブル」(ゆうぽうとホール)


10月17日(日)に、ゆうぽうとホールで

谷桃子バレエ団創立60周年記念公演6
レ・ミゼラブル」(芸術監督:谷桃子、演出・振付・選曲:望月則彦)

を見た。

14時開演。

上演時間は、一幕55分、休憩20分、二幕45分。

カーテンコールでは、谷桃子さんのあいさつもあって(2年にわたって行なわれた谷桃子バレエ団創立60周年記念公演は、この「レ・ミゼラブル」で無事終了とのこと)、終演は午後4時8分頃。


公演プログラム、1000円。

60周年記念公演ということで、ロビーでは舞台写真の展示が行なわれていた。


また、12月23日(木・祝)に、野田市文化会館大ホールで上演される(15時開演)、

野田市制施行60周年記念事業 NPO法人野田文化研究会設立5周年記念 野田市の子ども達共演による 谷桃子バレエ団公演「くるみ割り人形」全2幕

のチケットの販売もしていた。同公演は、チラシによれば、

金平糖の女王:佐々木和葉
王子:今井智也
クララ:木田玲奈

全自由席 大人4000円(当日4500円)、子ども(4歳〜中学生)3600円(当日4000円)、団体(10名以上)3800円

クララは子役ではないが、『野田市の子ども達共演』ということで、18人の子どもたちが出演する模様。児童出演は、越膳充恵バレエスタジオ、高野バレエ研究所シルフィードバレエ。




さて、「レ・ミゼラブル

主な配役は、

ジャン・ヴァルジャン: 今井智也
ジャヴェール警部: 三木雄馬
コゼット: 永橋あゆみ
ファンティーヌ: 佐々木和葉
マリユス: 須藤悠
エポニーヌ: 緒方麻衣
テナルディエ夫妻: 樋口みのり、近藤徹志
ミリエル司教: 陳鳳景
アンジョラス: 下島功佐
プチ・ジェルヴェ: 伊藤さよ子
少女時のコゼット: 木田玲奈


1階席は、1列が最前列。その前の座席(S1〜S4列)は、通常のバレエ公演ではオーケストラピットになることが多いが、今回は生演奏でないために、楽団は入らず、その部分は本舞台より少し低い張り出し舞台になっていて、修道院へ身を隠すヴァルジャンとコゼットが歩いたり、コゼット、ジャヴェールの踊りで使用されたが、張り出し舞台を設けながらも演劇公演のようには多用していなかった。

ただ、前方の張り出し舞台でコゼットが、あるいはジャヴェールがソロで踊り、想いや苦悩を表現するその背後で、本舞台ではストーリーが進行して行くという演出は、劇的で面白かった。


アンジョラスを先頭に、マリユス、エポニーヌや学生、女たちが、革命を目指して銃を取り、隊列を組むダンスシーンや、政府軍との戦いの場面を、観客が砦の後方から見るかたちの演出などには、東宝が上演しているミュージカル「レ・ミゼラブル」からの影響が色濃く感じられた。

それもあって、東宝のミュージカルと比較しながら、このバレエを見たひとも少なくなかったのではないか。私は、ミュージカルとのちがいを面白く見た。

そもそも、このバレエは、「レ・ミゼラブル」というお話を知っていなければ、予備知識なしで、ただ舞台を見ただけでは、おそらく内容を理解出来ないと思う。(以前に、バレエの「アンナ・カレーニナ」を見たことがあるが、そちらのほうが、ずっと話は分かりやすい)

いまの日本では、世界名作全集の類や、それに収録されるようなスタンダードな名作小説を(子ども向けに書き直されたものも含めて)読む習慣は、どんどん減っているだろうから、こうした作品を踊りと限られたマイムだけで表現して、観客がその世界をすんなりと共有して楽しむというのは、かなり難しそうだと思った。


東宝のミュージカル版を彷彿とさせる場面があったのとは逆に、ミュージカル版では使われていないエピソードがこのバレエには盛り込まれていて、今回の谷桃子バレエ団「レ・ミゼラブル」は、原作のエッセンスを上手く掬い上げて舞台に乗せているとも思った。

ミュージカルでは仮出獄のまま逃亡したバルジャンをジャベールが追うことになっているが、このバレエでは刑期を終えての出所後、プチ・ジェルヴェが落とした金を奪ったことで、ヴァルジャンはジャヴェールに追われる身となる。また、ミリエル司教との銀の食器や燭台をめぐるエピソード以上に、プチ・ジェルヴェ事件のほうが、ヴァルジャンを改心させるきっかけになっている。

ジャヴェールによるヴァルジャン追跡劇は、非常にスピード感のあるシーンが織り込まれ、また、ジャヴェールを踊るダンサーのクールかつシャープな演技も手伝って、なかなかにスリリングに展開する。

ヴァルジャンがコゼットとともに修道院に潜むエピソードがえがかれたり、政府軍との戦いに敗れたあと、革命軍の生き残りが銃殺刑に処せられるシーンなども、ミュージカルにはない場面として印象的だった。

印象的といえば、このバレエでは、エポニーヌ、コゼット、マリユスの三角関係よりも、むしろ、コゼットを間に挟んでのヴァルジャン、マリユスの三人の関係性のほうが濃密に表現されていて、このあたりにもミュージカルとはちがうバレエ版としての特徴があった。


なお、このバレエには、ガブローシュは登場せず、エポニーヌもとくにテナルディエの娘という設定にはしていないようだった。

プチ・ジェルヴェ、少女時代のコゼットと、少年少女の役があるが、いずれも子役は起用していない。


だけど、このバレエ団って、一般発売で最前列のチケットが買えるよね。(以前に「白鳥の湖」を見たときもそうだった。なんて良心的だろう…)