放浪記(帝劇) 初日


5月5日(祝・火)に、帝国劇場で、

森光子主演「放浪記」
(林芙美子作品集より、菊田一夫 作、三木のり平 潤色・演出、北村文典 演出)

の初日を観劇。


帝劇公演なので、開演の1時間前から開場しているだろうとて、早めに出かけた。有楽町に着くと、すでに雨が降り出していたが、傘は使いたくないので、駅から劇場までは地下を通って。

初日の劇場ロビーで、「放浪記」のプログラムを買うときの、わくわくする高揚感といったら、格別である。公演プログラムは、1500円。『上演二〇〇〇回記念号』と打たれている。


今回の帝劇公演は、初日のみ午後2時開演(他日は、1時開演)。

第一、ニ幕 1時間
休憩 15分
第三幕 25分
休憩 25分
第四幕 1時間15分
休憩 5分
第五幕 30分

初日のタイムテーブルは上記のようだった。


子役の行商人の子は、竹内祐稀・今津凪沙の交互出演

竹内祐稀さんは、2006年帝劇公演から、今津凪沙さんは、さらに前の2005年芸術座最終公演から出演していて、地方公演も含めてここ数年は不動のダブルキャストである。何の心配もなく、見ていられる。

初日は、竹内祐稀さんが演じた。


チラシに載っていた主要キャスト以外では、

田村伍平役が、若杉宏二(5月5〜9日)・助川汎(11〜29日)のダブルキャスト


また、芙美子の文学仲間のひとり、渡辺一郎役が今回から(金内喜久夫に)替わった。

私が「放浪記」を見るようになってからの同役は、ずっと松波寛という役者さんが持ち役にしていて、馴染みのキャストだった。帰ってから、劇団東宝現代劇75人の会のサイトを見たら・・・松波寛さんは、2009年1月4日に亡くなられたとのことである。
http://www.tohostage.com/gendai/profile/matsunami.html
(昨秋の名古屋公演には出演してらしたのに。びっくり…)

以前には、行商人の役でおなじみだった吉田光一さんが「放浪記」に出なくなって、その後、東宝現代劇75人の会の芝居を見に行ったとき、プログラムに訃報が載っていたということがあったのを思い出した。


さて、今回の「放浪記」、いちばん目立った変更点は、第五幕「落合の家」。訪ねて来た菊田一夫(斎藤晴彦)が芙美子の母・きし(大塚道子)と話しているところへ、芙美子(森)が現れ、菊田へ「あんた、また、すすけたじじいになったね」などといいながら、上手の机の前に座るのだが、ここで前回までの芙美子は座布団の上に正座していたが、今回は低い椅子を使っている。


第一幕の下宿、本郷・大和館の場での座長さんの演技が、昨秋の大阪・名古屋に較べると少し若返った感じなのが、何より。この第一幕の最後で、電灯を消した芙美子が、横にならずに座って演じるのは昨秋の中日劇場からの変更のまま。

この大和館の部屋の電灯は、近年、目に見えて低くなった。帰ったときに芙美子が点け、また伊達春彦(原康義)が日夏京子(山本陽子)を連れて戻ったのを知って押入れに隠れるときに消し、さらに安岡信雄(山本學)が入って来る前に消す電灯。その位置で、森光子さんがずい分小さくなったことが分かって、いささか切ない。

初日の第一、二幕は、(女給部屋ではちょっとセリフが飛んだ気もしたが)芙美子のセリフは昨秋の舞台よりも明瞭で、5か月前より好調に見えた。

初日を見る限り、昨年の舞台で気になった手の震えはなくなっていたし(足の貧乏ゆすりはあるものの)、昨秋の大阪、名古屋公演よりも、今回のほうが調子がよさそう。(2008年はトータルでおよそ6か月も「放浪記」を上演していた訳で、ハードスケジュールだったのかも知れない)

これなら、もっとたくさんチケットを買っておけばよかった、帝劇公演なら4000円の廉価な座席もあったのに、しくじった…と、買ったチケットの余りの少なさに、幕間は後悔しきり。

とはいえ、第三幕の尾道の場(義父・謙作への返答)や、第四幕の渋谷の木賃宿(藤山武士との会話)ではセリフが出なくてあやしくなったり、第五幕の落合の家では「貧乏人を助ける会なの」のところでセリフをはしょったりもあって、たまにセリフが出にくくなるのは、シアタークリエ以降の傾向といえる。

劇中、芙美子が煙草を吸うシーンが何回かあるが、煙草は手にしながらも火を点けていなかったが、これは、そう変えたのか。次回の観劇時に、またよく見てみたい。


尾道の場で、竹内祐稀ちゃんの行商人の子が、ご膳を食べながら、握り箸でたくあんを取ったのが、すばらしかったな。

すばらしいといえば、やはり「放浪記」は、すばらしい。かくも面白い舞台は、そうそうあるまいと改めて思わされた、そんな初日であった。


俳優の高橋英樹夫妻がいらしていて、休憩中にロビーで、気付いたお客さんたちからの握手や写真の求めに応じる姿があった。

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放浪記(帝劇) 5月13日→http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20090526/p1