運転免許わたしの場合 (青年座劇場)


3月31日(火)に、青年座劇場で、

「運転免許わたしの場合」(作:ポーラ・ヴォーゲル、訳:酒井洋子、演出:望月純吉)

を見た。

新進芸術家育成公演等事業 文化庁芸術家在外研修(新進芸術家海外留学制度)の成果、と銘打たれており、在外研修制度を利用して研修した演出家、スタッフ、俳優を中心にしたカンパニーによる公演で、日本劇団協議会が制作、文化庁の主催となっている。


この舞台のことは、読売新聞の紹介記事で知り、↓
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/stage/theater/20090318et05.htm
劇団協議会や青年座のサイトの公演情報を見て、面白そうだと思いチケットを買った。

青年座劇場にははじめて行ったが、この公演では、客席は階段状に組まれ、座席はパイプ椅子をつなげて並べるかたち。ひじ掛けがないので窮屈だが、段差があるので、ステージはよく見える。ただし、パイプ椅子は背もたれの下が空いているので、(この段差のせいで)脚を伸ばすと前列のお客さんの背中を靴先で突付いてしまうことになる。上演中、後席の客に背中を蹴られたり靴先を押しつけられたりして、不快だった(小劇場だし、ストレートプレイの上演中に文句もいい難いが、さすがに我慢しかねたので、その靴先を手で掴んで押し戻し、振り払ってみたら、その後はなくなったので、ご理解いただけたようだ)。

満席だと、150人くらい入るのか。1週間で計7ステージの小規模公演にしては、カラー8ページのプログラムが配布されたのは、文化庁主催もあってのことだろうか?


午後2時開演。上演時間は、1時間55分。休憩なし。

原題は、how I learned to drive


血の繋がらない姪に、男が抱き続ける「愛情」・・・いまや40歳になったその姪が、おじに運転を教わった11歳のそのときから、大学入学後に彼と訣別するまでのおじとの関わりや、10代の頃を語ることで、過去に決着をつけるというようなお話。

チビちゃん(三浦純子)とおじのペック(井上倫宏)の他は、男性コロス(大家仁志)、女性コロス(山上優)、十代のコロス(高田亜矢子)が複数の役を演じる。

「チビちゃん」と呼ばれた女性の過去の出来事は、時系列に添って進むのではなく、おじ・ペックとの関係や、育った家庭のこと、学校でのエピソードなど、場ごとに時間が前後しながらえがかれて行く。いわば、各場はパーツになっていて、終幕近くに11歳のときのことがえがかれると、おじとの経緯がひととおり観客の頭のなかで揃うという構成。


いちいち運転に結びつける展開の意味が私には汲み取れず、性や家族のあり方という刺激的でスリリングなはずの素材なのに、おおむね退屈であった。チビちゃんには、もっと若い女優を起用して欲しい。女性的な魅力をわざと削いでいるような今回の配役では、回想に生々しさが欠けてしまい、過去のシーンがつまらないし、セリフの内容とも乖離している。

運転技術を教えるペックとチビちゃんには、教え教わる関係が色恋沙汰に陥りやすいという普遍性が重ねられているし、おじと姪という設定は、性的虐待は身内や知り合いが加害者になるケースが多いという問題そのものである。ふたりの関係のなかから、これらの今日に通じる課題をもっとはっきりと浮上させて、告発するような芝居が見たかった。あなたはだれにいたずらされたんですか、というペックへの問いかけは、おじも被害者だったという「おあいこ」で収まってしまわないか。性被害の連鎖を示唆して終わりでは、ありふれた評論みたいだ。


(※少し文章を直しました)