日生劇場+文学座ファミリーステージ「トムは真夜中の庭で」


日生劇場国際ファミリーフェスティヴァル2008
日生劇場文学座ファミリーステージ「トムは真夜中の庭で」
(原作:フィリパ・ピアス高杉一郎訳より 脚本・演出:高瀬久男)

を観劇。

8月9日(土)の、11時開演/15時開演の公演を続けて見た。

入場の際に、キャスト・スタッフのクレジットやプロフィール等が載っているパンフレット(カラー8ページ、表紙含む)が無料配布されたが、他に公演プログラムも500円で販売していた。

それらによると、

この公演の子役の出演予定は、

トム: 島田達矢(9日11時、10日15時)・横田剛基(9日15時、10日11時、11日14時)

ハティ: 海津更(9日11時、10日15時)・矢島夏美(9日15時、10日11時、11日14時)
つまり、「島田・海津」ペアと「横田・矢島」ペアでの交互出演である。


他の配役は、↓のエントリーのとおり。
http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20080621/p2
(ただし、プログラムに従って、少し加筆しました)

上演時間は、一幕70分、休憩15分、二幕55分と掲示されていたが、私が見た2公演は、どちらも予定時刻より3、4分早く終わった。


ステージは、1階席のXA〜XC列の座席部分(オーケストラピットになるところ)が張り出し舞台になっていて、A列が最前列になっていた。びっくり…

張り出した舞台の上手側に、おばさん夫婦に預けられたトムが夏休みを過ごすことになった部屋、下手側には、アパートの大家であるバーソロミュー夫人の部屋がある。
ふたつの部屋は上演中ずっと変わらずに使われる。トムが「真夜中の庭(=ハティの世界)」にやって来るとき、バーソロミュー夫人は部屋で寝ているという演出は、このドラマが、トムとバーソロミュー夫人の間の出来事であることを早い段階から示唆していて、ドラマが進行するにつれ、観客にそれが見えて来る仕掛けだ。だから、後半はなかなか面白く、大きな盛り上がりはないが、胸に迫る幕切れが待っている。


夏休み。弟のピーターがはしかにかかったために、おばさんのところに預けられたトムは、退屈で眠れぬ真夜中、アパートの玄関にある旧い大時計が「夜の13時」というあり得ない時刻を告げたのに誘われて、あるはずのない庭へ足を踏み入れる。その庭でトムは、両親を亡くし縁戚の家で暮らしている少女ハティと出会うが、そこでのトムの姿はハティ以外のほとんどの人物には見えないらしい。トムは、毎夜のように「庭」を訪問するが、ハティがいる世界では時間が経つのが速く、ハティが急に大きくなって(成長して)いたり、また、たまに時間が戻ったりもする。

場が多い第一幕は、展開が説明的なこともあり、まどろっこしい感じも。大人になったピーターが子どものときに兄のトムから聞かされた話を作者として語る、というかたちをとっていて、このナレーター役のピーターの存在が、よくも悪くも、舞台をさらに説明調にしている。
見舞いに行ったハティの部屋が、自分がいま夏休みを過ごしている部屋と同じであることにトムが気付くあたりからは、第一幕で演じられていたことがほどけはじめ、謎解きと結末への運びが併走してスリリングになる。


この作品の最もいいところは、男の子の「かなわぬ初恋」をえがいている点だ。トムが入り込んだハティの世界は、バーソロミュー夫人が夢に見ていた彼女の少女時代〜若かりし頃の回想であり、そうである以上、いまの時間を生きているトムがハティの世界にとどまろうとしてもそれは無理なことだったろう。しかし、トムは、年老いたハティ(バーソロミュー夫人)といまの時間で邂逅することになる。それが、静かな感動を呼ぶと同時に、甘くも苦い味を含んでいて、深い余韻がある。


第一幕で、庭を走る子役のハティには、どこまで演技がつけられていたのか。段取りを決めて衣裳を着て走れば、ああなるものなのか? つまり、かわいく走れるのはその子役の資質なのか、それとも、腕の振りなどの走り方もある程度まで演出された結果なのか。
小学生の女の子が舞台を走る姿で、あれほど素敵で、印象的なシーンが創れるというのは、この「トムは真夜中の庭で」における最大の成果のひとつといっていいだろう。


9日の舞台を見た限りでは、子役は、「横田・矢島」組のほうが総じて上手く、バランスもよかった。だから、5ステージ中3ステージに出演するのは順当だ。ただ、もし、もう1回この舞台を見るとしたら「島田・海津」組を見たいと思った。このあたりが、舞台の簡単でないところだ。

ハティは、ふたりとも揃ってかわいいが、海津更ちゃんという子に、プラスアルファのおもしろさがある。庭を走り、リンゴをかじるだけで特筆すべき愛らしさ。セリフが不明瞭な傾向はあったが、セリフがもうひとつ弱いのは、程度の差は多少あっても子役の4人に共通で、つまり、指導した文学座の側の問題ともいえよう。ただ、それを差し引いても、トム役の男の子ふたりは、大劇場のストレートプレイの主役としては、いささかのもの足りなさは否めなかった。

とはいえ、トムには舞台上でのナマ着替え!が3回もあるし、横田剛基くんがベッドで仰向けになったときは、あれは、アンジョルラスの物真似?!…など、見どころはある。


『私は王女さま。さあ、私の手に口づけしてもいいわよ。』って、ハティのまぁ!かわいいこと。


ところで、前日の8月8日は、赤坂ACTシアターへはじめて行ったのだが、意外と舞台の開口部(間口)が狭く、そのせいもあって、日生劇場の舞台がずい分と広く見えた。