都はるみ新春特別公演「好きになった人」(中日劇場)を観劇


1月26日(土)に、中日劇場で、デビュー45周年 都はるみ新春特別公演を見た。夜の部で、午後4時開演。


後半の日程はほとんど貸切で、25日夜、26日夜、27日昼(千秋楽)のなかからどれにしようとか考えて、割りと舞台にも近いほぼ中央の席が取れる26日夜を選んだ。子役の立ち位置が分からないと、前方でも端の座席は取れないし、横のほうの席だと、座長さんの歌謡ショーになったとき疎外感が生じるかも知れない。・・・結局、中島久恵ちゃんは外してしまったが、舞台はなかなか楽しめた。


お芝居の「好きになった人 恩師・市川昭介都はるみ物語」(池田政之脚本・演出)が、1時間35分。休憩30分。そのあと、「都はるみ熱唱2008」(中村一好構成・演出)が、1時間20分。

公演プログラム、1000円。


「好きになった人 恩師・市川昭介都はるみ物語」は、都はるみの半生を、はるみの母・北村松代(都はるみ)とはるみ(渕上雅代)、作曲家の市川昭介(矢崎滋)、の3人の関係を軸にしてえがいたもので、故人となった母と恩師へ思いをいたす、といったおもむきも。


再婚した母の連れ子だった松代は、義父方の祖父母から冷たくされ肩身の狭い思いをするが、唯一の慰めは歌をうたうことだった。長じて所帯を持ち、夫の正次(高田次郎)と織屋を営む松代は、自分の子どものなかでいちばんうたの上手い長女の春美に歌手になる夢を託し、厳しく芸事やうたを仕込む。やがて春美はコンクールで優勝、「都はるみ」の名で歌手デビューを果たすと、作曲家市川昭介とのコンビがミリオンセラーを生み、ついにはレコード大賞の栄誉に輝く。

レッスン中に額の汗をぬぐうしぐさが猫の手のようだというので、市川昭介からは「ねこ」と呼ばれていたこと。春美にだけ多くの習い事をさせ、借金をしてまでお金をつぎ込んだ反面、妹弟は放任されていたという、どこか美空ひばりのそれにも似た家族構成。市川からの忠告で表には出ず、裏から娘を支えたという松代。「アンコ椿は恋の花」で新人賞を得ながらも、うなり声が年齢不相応との理由で紅白歌合戦に落選、捲土重来を期した「涙の連絡船」の誕生。レコード会社が別々になり仕事でコンビが組めなかった時期にも、影からはるみをサポートした市川との師弟のきずななど、ファンには夙に知られているのだろうが、私には初耳のエピソードも多く、そういう点でも面白かった。

都はるみが松代を演じることで、自身の半生とそれを見守る母親の視点とをダブらせる構図が、いい。どんな気持ちで演じているのだろうとの想像を促され、それがシーンの深みにつながった。市川昭介役の矢崎滋が進行役を兼ねており、「好きになった人」という自伝的芝居を、母と恩師が文字通りの両輪となって運ぶ展開だ。


子役の配役は、それぞれダブルキャストで以下のようであった。

村松代(=都はるみの母。子供時代)/北村春美(=都はるみ。子供時代): 中島久恵・光村早希

北村初江(都はるみの母の義妹。子供時代)/北村寿美(=都はるみの妹。子供時代): 松井彩笑・宮川万有香 


子役の出番は最初のほうだけだが、使い方がおもしろい。

子役ふたりは、まず、都はるみの母・松代とその妹・初江の子ども時代で出演し、またすぐあとに、衣裳を替えて、同じ子役がはるみと妹・寿美の子ども時代を演じる。

松代・春美の子役は、観劇回は、光村早希さんが演じていた。松代役と春美役と、どちらも歌をうたうシーンがあって、しどころ。マイクは胸のあたりに付けていた。

(母の松代が子どもの春美にうたのレッスンをしているというので、下手ソデから声が聴こえて来るシーンがあるのだが、このときの声がナマなのか録音なのかは、判別出来なかった)


「好きになった人」では、中日劇場の左右にある花道(脇花道)を使用。下手側花道から子役が登場する場面あり。

脇を固める「かしまし娘」。3人揃っての幕前での漫才が大いに笑える。ベテランの芸である。


休憩を挟んでの都はるみ熱唱2008」は、自身のヒット曲のオンパレード。曲間のトークでは、「好きになった人」の行間ともいえるエピソードも語られ、見たばかりの芝居と持ち歌の数々とが重なり、『都はるみ物語』の第2幕を見ているかのような楽しさがあった。

途中、「好きになった人」ではるみ役を演じる渕上雅代がデビュー曲を披露。また、共演者のひとり、竜小太郎の踊りが入る。この間に、座長さんは衣裳替え。




余談だが、年のはじめに、中上健次の評伝(高山文彦エレクトラ 中上健次の生涯」文藝春秋)を読みながら、この作家は都はるみが好きで都はるみを書いた著作もあったはず、と思っていたら・・・今般、名古屋まで見に行くことになった。

都はるみを書いた半生記や小説は(中上作以外にも)いくつか出ているが、いずれも新刊での入手は難しいようだ。もし機会があれば読みたいものだが…