伊勢詣おいぬ某、あるいは禿。

国立劇場11月歌舞伎公演は「元禄忠臣蔵」の通し上演の第二部で、伏見撞木町、御浜御殿綱豊卿、南部坂雪の別れ、まで。
「御浜御殿綱豊卿」は、甲府家の年中行事のお浜遊びの一日で、おんな共が仮装やら芸事をして遊ぶ。伊勢詣りに扮した局方の小僧(おいぬ)が、綱豊卿に柄杓を差し出し、「抜け参りでございます。一文の御報謝…」とやることで、東海道々中の真似事(道中ごと)の件りを、見せている。戯曲では、その前に、おいぬ某の伊勢詣りが、大女が扮した飛脚に突き飛ばされて泣く、という場面がついているが、これは、最近の上演慣習では出ないようである。

伊勢詣おいぬ某は、近年、今井満里子ちゃんや中村佳奈嬢など低年齢の女の子が出演していたが、今月は、中村梅丸さんである。
(9月秀山祭の小按摩でもそうだったが)梅丸さんは声がよく通るし、セリフが明瞭だが、反面、セリフをいっているだけに見えるところがある。が、あくまでも子役として舞台に立つ子と、将来歌舞伎俳優になることを前提に舞台に立っている子とを同じ尺度で見るべきではないのだろうから、このあたりのものいい(評価)はむずかしい。現在、4年生とのことであるが、その年齢にしては、身体もしっかりして見え、舞台姿が安定している。

「伏見撞木町」には、切り髪の禿がふたり登場する。禿といえば、花魁の後ろに控えている図がすぐに思い浮かぶが、「伏見撞木町」での禿は、放蕩する大石内蔵助の鬼事(目隠し鬼)の手拍子で手を叩いたりして、楽しそうで、いい。

禿のふたりは、中さとみちゃんより、柴田みなもちゃんのほうが少し小さ目なので、遠目にも見分けやすい。