弁慶のカーテンコール



松本幸四郎「弁慶のカーテンコール」(光文社知恵の森文庫、743円税別)

を読んだ。



1996年に上梓した「ギャルソンになった王様」(廣済堂出版)に加筆修正し、加えて、その後各所に発表した文章や、所感を収録してまとめたもの。「ギャルソンになった王様」の部分にもちゃんと手が入っていることが分かる。「構成・小野幸恵」とあるだけに、そのあたりも行き届いたつくり。



松本幸四郎というひとの俳優としての姿勢、歌舞伎に向き合うスタンスがよく分かる本。エッセイ集であるが、「芸談」色の強い内容で、とくに最近演じた役々についての工夫や変更に触れた章は、客席からその舞台を目の当たりにした演目も多いだけに、大変に興味深く、なるほどそうかとうなずいてしまう。

勧進帳」への思いも伝わって来る。



ラ・マンチャの男」でブロードウェイの舞台に立ったときのエピソードのうち、舞台用の英語を教える先生についた際の話がおもしろい。『たとえば、「ドッグ」と舞台で言っても、「グ」がお客様には聞こえない。ですから、わざと「ドッガ」と発音するんです。』ここから、義太夫にも「うみじ」という独特のいい回しがあって、ちがった音を出して正しい音を客席に聞かせる発声法が、日本語にも英語にもあることを指摘する。(私はこの部分を読んでいて、劇団四季の発声もこれに似たものだな、と思った)



いま、読売新聞に連載中の「時代の証言者 中村吉右衛門」でおなじみの「ばあや」のことも、世話になったひととしてチラッと。



幸四郎丈による挿絵も味がある。