秋元松代 希有な怨念の劇作家



相馬庸郎「秋元松代 希有な怨念の劇作家」(勉誠出版、3800円+税)

を読了。

奥付によれば、昨(2004)年夏に出た本。



商業演劇では蜷川幸雄演出の「近松心中物語」のヒットで知られる劇作家、秋元松代を論じた本。評伝、作品論、年譜からなる。多くの受賞歴を持ち、「山ほととぎすほしいまま」「村岡伊平治伝」「常陸海尊」「七人みさき」など、いくつもの作品が高い評価を得て、今日なお上演されつづけているにもかかわらず、生前の秋元松代は、演劇界においては異端的位置にいた。著者はその人生を「孤絶」という言葉で集約している。

ほぼ同年齢の劇作家、木下順二が、自作を表現するための劇団や俳優(たとえば山本安英)に恵まれたのに対して、秋元松代がそれを得られなかったことも、戯曲の評価に較べて新劇において不遇だった理由のひとつに挙げる。



師である三好十郎との相克から、晩年に到っての商業演劇での成功までを丹念にたどった第一部の『評伝抄』が、秋元松代のひととなりに迫っていて、読ませる。



著者は、元神戸大学教授で、日本近代文学(自然主義文学)が専門のひとらしい。秋元松代とは一面識もなかったということで、研究者らしい仕事と思って読んだ。演劇ジャーナリズム方面からのアプローチとはまたちがう醍醐味を感じた。



ただ、残念なのは、誤植や日付のまちがいの多さが、学者のものした本としては瑕になっている。本格的な研究書なら出来上がってから気づいたまちがいは、正誤表を作って添付するか差し込むものだが、そこまでの本ではないのか、私が購入した同書には、その類のものは入っていなかった。



気づいたなかからひどい例を挙げれば、「近松心中物語」が「近松心中特語」になっている(180頁)、「元禄港歌」が「元禄港唄」になっている(377頁)、などの作品名の誤植。さらに、秋元松代の没年[正しくは平成十三年]が、平成二年になっていたり(180頁)、平成十二年になっていたり(208頁、366頁)のまちがいは、ひどい。巻末の『年譜』でも、平成13年が2000年[正しくは2001年]になっている。



活字には、インターネットなどとは比較にならない信頼性があるべきなのに・・・研究対象の亡くなった年時を幾度もまちがえているのは、自らの労作を貶める行為ではないか。