才能の森 現代演劇の創り手たち
扇田昭彦「才能の森 現代演劇の創り手たち」(朝日選書、1300円税別)。
朝日新聞出版局発行の月刊誌「一冊の本」に連載したものに加筆・補筆し、まとめたもの。
新聞記者、演劇評論家としての著者が親交、交流を持った演劇人24人を取り上げて、そのひととなりや横顔をつづっている。著者との関係を通しての人物紹介だから、扇田氏の、対象となる各演劇人との距離感のちがいがうかがえるのが、おもしろい。
仲間のような立場で書いているものがあるかと思えば、聞き書きふうにまとめたものあり、演劇記者・批評家の立場に立っているものもある。年齢が上の世代には敬称を付し同世代や年下は敬称抜き、という書き方をしているのだが、その敬称の使い方からも、その距離が察せられよう。
24人の演劇人について書きながら、扇田昭彦というひとが自分を語ってもいる訳で、そこが単なる演劇人紹介ではない、この本の読みどころだ。
ちなみに、24人とは、寺山修司、唐十郎、蜷川幸雄、太田省吾、井上ひさし、杉村春子、宮本研、つかこうへい、ピーター・ブルック、ヨシ笈田、松本雄吉、東由多加、秋元松代、安部公房、千田是也、野田秀樹、タデウシュ・カントール、朝倉摂、ユーリー・リュビーモフ、渡辺えり子、出口典雄、福田善之、畠山繁、大笹吉雄。
なかでも、朝倉摂、秋元松代の章は格別。ほとんど知識のなかった安部公房の演劇活動について興味深く読み、著者の東由多加への見方になるほどとうなずかされた。
「一九六〇年代に小劇場運動を始めた第一世代には、なぜか長身の劇作家や演出家が多い。」という指摘には、あっ、確かに、と思ってしまう。
また、錚々たる演劇の創り手が並ぶなかに、批評家からひとり大笹吉雄が入っているのが目を惹く。大笹吉雄氏が「中央公論」2000年4月号に書いた「浅利慶太論」は反響を呼んという。
その「浅利慶太論」は、当時、私もすぐに読んで、ネットで某所に駄文(感想)を書いたことがあってなつかしいが、大笹吉雄だから出来たこと、みたいないわれ方があったと記憶している。
軽く読める本だが、味わいどころは多い。
全くの蛇足ながら・・・「ピーターパン」は、福田善之演出がいちばん面白かったと、私は固く信じている。