紫陽花や山田五十鈴という女優



升本喜年「紫陽花や山田五十鈴という女優」(草思社、1900円税別)

を読了。



2年前に出た本。読みたいと思いつつもこれまで縁がなかったが、先日、銀座の書店の棚にきれいな本が入荷していたのを見つけて、好機とばかりに購入。



松竹のプロデューサーとして知られた著者が、自身の目を通し、また資料をあたってものした、大女優山田五十鈴の丹念なる評伝。山田五十鈴を書くことで、当時の映画界、また演劇界の状況が垣間見えるのが面白く、とても密度の濃い内容。



13歳での映画デビューから、映画、演劇の世界でスターとしてありつづけ、文化勲章を受賞するまでがえがかれる。4度の結婚と離婚、花柳章太郎との関係など、男性遍歴的な部分からも目をそらさず、むかしのゴシップに詳しくない読者(つまり私のこと)の興味も満足させてくれる労作。



現・坂東彦三郎が子役時代に「路傍の石」に出演したのは、すでに他の子役が決まっていたのをくつがえしての御曹司の横入りだったとか、著者の反対で日活デビュー前の吉永小百合という逸材を松竹が取り逃がしたことなど、すでに時効(?)のエピソードもちりばめられている。



巻末の、山田五十鈴映画、舞台出演作品の一覧が参考になる。



なお、「紫陽花や山田五十鈴という女優」とは、花柳章太郎が五十鈴のことを詠んだ句で、そのまま引いたタイトルからも、大女優の生き様が読み取れる。