市川海老蔵 古典への誘い(観世能楽堂)
今般は、「市川海老蔵 古典への誘い」を見に、はじめて観世能楽堂へ行った(3日間あったうち、3月14日と15日で、3ステージを観劇)。
いまはもうむかしの学生時代に、当時の専攻との絡みもあって、能や狂言を見に行っていた時期があったのだけれど、行くのは専ら国立能楽堂と宝生能楽堂で、結局、他の能楽堂には行かず仕舞いだった。
宝生能楽堂のロビーにはわんや書店の売店があったけれど、観世能楽堂には、ちゃんと檜書店の売店があって、あ、やっぱり謡本を出している本屋がなかにあるんだな、と。
観世能楽堂は、見所(客席)の座席表示で、中正面といういい方をしていなくて、チケットを買ったときに、席位置をイメージしづらかった。他の能楽堂では、いまでも「中正面」というよね?
で、そのいわゆる中正面の席は、目付柱がじゃまになって見づらいこともあって、料金が廉価に設定されることが多いのだけれど、今回の「古典への誘い」では、「中正面」に該当する席位置(のとくに前方)が思った以上の良席だったと思う。
というのも、最初のオープニングトークでは、海老蔵丈をはじめ、福太郎くんや、解説役の能楽師のひとが舞台ではなく、客席に登場して、目付柱を背にする位置に立って、ハンドマイクで話をしたので、オープニングトークでは中正面にあたる座席がむしろ正面席になり、前方の座位置だと、びっくりするほど近かった。
今回の観世能楽堂公演は、S席9500円、A席8500円だったが、席位置によっては、1000円安い席のほうがいいものが見られたのではないだろうか。私の場合は、3回見たうち、1000円ケチったA席での2ステージのほうが格段によい席で、得をした気分。
「石橋」も「連獅子」も、シテの獅子がふたりなので、目付柱でひとりが見えなくてももうひとりが見えるので、舞台の見え方でストレスを感じることもほとんどなかった。
さて、公演プログラムは、1000円で販売。これは、八千代座公演、観世能楽堂公演のほか、巡演も共通のもので、福太郎くんの紹介(インタビュー)が1ページで載っている。
「古典への誘(いざな)い」観世能楽堂公演の演目は、
一、オープニングトーク
二、半能「石橋」
三、舞踊「連獅子」
ロビー掲示されていたタイムテーブルは、「30分+25分+休憩+45分」となっていたが、じっさいは、オープニングトークと「石橋」で、50分前後。休憩が実質25分くらいあって、「連獅子」が約50分、といったところ。
トータルの上演時間は、14日は2時間7分ぐらい、15日夜はちょうど2時間10分だった。
オープニングトークの出演は、市川海老蔵、市川福太郎、梅若紀彰(14日)、坂井音晴(15日)。
海老蔵丈は両日では着ていたスーツがちがっていた。福太郎くんは、三升の浴衣姿。
もちろん、「連獅子」がいちばんの見どころではあったのだけれど、トークがなかなか楽しくて、とくに、福太郎くんのナマの自己紹介や「連獅子」についての解説も見どころ聴きどころだった。
話の内容も回ごとにけっこうちがえていた(海老蔵丈がそう仕向けてもいたようだった)。
「風林火山」に出たあと、本格的な歌舞伎としては「毛谷村」が最初だったといっていた。これは、2008年のことですね。
2008年を振り返ってみると、秋山悠介くんは、4月が日生劇場「風林火山 晴信燃ゆ」で、5月が新橋演舞場で「毛谷村」の弥三松、6月が歌舞伎座で「すし屋」の善太郎、そのあと、夏の巡業でまた「毛谷村」の弥三松、9月は新橋演舞場で「義賢最期」「実盛物語」の太郎吉(今回のプログラムに載っているインタビューで、これが成田屋さんの芝居に出た最初とある)、11月は新橋演舞場の「通し狂言 伽羅先代萩」で千松を演っている。年明けの正月は、新橋演舞場で「千本桜」の善太郎で、こうしてみると、最初の1年だけでも、かなりすごいな。
それに、「風林火山」の武田勝頼役って、坂口湧久くんとのダブルキャストだったのだね(これもすごいな)。
と、まぁ、それはともかく・・・
「連獅子」の主な配役を書いておくと、
狂言師右近 後に親獅子の精: 海老蔵
狂言師左近 後に仔獅子の精: 福太郎
法華の僧 蓮念: 右之助
浄土の僧 遍念: 市蔵
後見が、新蔵、新十郎 ほか
能舞台で見る「連獅子」は、新鮮でおもしろかった。橋掛かりを使ったところに普段の歌舞伎とはちがう味わい。
きっちり数えた訳ではないが、毛振りは、50回まわしたのかな。その前にも、橋掛かりから舞台へと14、5回。
能舞台で緞帳がないので、どういう終わり方をするのか、と思っていたが、踊りおさめた親獅子と仔獅子が、橋掛かりへと退場し、揚幕へ入ったところで、能舞台の明かりが落ちて、そこで終演というかたち。