今夜此処での一と殷盛り (サンモールスタジオ)


8月14日(火)に、サンモールスタジオで、

芝居屋風雷紡 第六廻公演
「今夜此処での一と殷盛り」

作:吉水恭子、演出:中村暢明(JACROW)

を観劇。

過去ログのこの(→http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20120630/p1)公演である。

午後7時開演。上演時間は、約2時間。


客席に入ると、雰囲気のある、なかなか凝ったセットが組まれていて、これからはじまる芝居への期待を抱かせる空間が、そこにあった。

階段状に、この日の客席は、椅子が4列並べられていて、観客は40人程度だったか。目算だが、満席になっても、50人前後かと思われた。以前に同じ劇場で見た「墨を塗りつつ」にも増して、贅沢なスペースが創られていたといえる。

2010年の第四廻公演「墨を塗りつつ」が、横溝正史の「犬神家の一族」っぽかったとするなら、今回の「今夜此処での一と殷盛り」は、「八つ墓村」のテイストであろう。津山三十人殺しほど多くの死者は出ないものの、因習が支配する20軒ほどの集落で、一夜にして複数の人間が殺し殺され、あるいは自死するという事件が起き、その忌まわしい事件とともに小さな村の存在そのものが記録から抹消されてしまったという出来事がえがかれる。

主舞台では、大正13年に姫隠村というその村で起きた事件が進行形のドラマとして演じられ、舞台奥の上手側上部に設けられた部屋(旅館のひと部屋で、ここにひげ面の探偵が棲みついている)では、事件から23年後、ひとりの少女(事件当事者の孫)が訪れ、探偵に祖父に関する調査を依頼する。大正13年のシーンと、昭和22年のシーンとが、ほぼ交互に展開して行く構成。

製糸業が廃れるなか、年端も行かぬ娘を売ることで、集落が食いつないでいる村の因習が、ついに殺人というかたちの暴発を生む。主舞台で演じられるこのドラマは、雰囲気のあるセットや照明効果も手伝って、そこそこ見せるのだが、探偵による謎解きのパートがいただけなくて、興醒めである。

とにかく、ひげ面の中年探偵は、ユーモアと突飛をはきちがえたような奇抜な言動を連発しながら、累(るい)という娘(依頼主の少女の付き添い)が差し出すヒントにばかり依存した推理で、探偵として余りにも残念な人物というしかなく、しかも、推理劇として見た場合、少女の祖父だという人物が何者だったかという謎は解かれるものの、他の気になる謎が置き去りのままで終わってしまい、どうにも欲求不満が募る。探偵の部屋(一部回想シーンでも使われるが)でのシーンが、終始すだれ越しに演じられるのも、見ていてもどかしさをおぼえる一因だ。

加えて、この変な探偵が、中原中也の「サーカス」という詩を、場ちがいと思えるような大声で朗誦するのにも辟易させられた。タイトルの「今夜此処での一と殷盛り」は、中原中也のこの詩からとったとのことで、作品のモチーフでもあるようだが、探偵役の朗誦が上手くないせいで、違和感ばかりが残った。

同じ作者、演出家の「墨を塗りつつ」や、同じ演出家の「明けない夜 完全版」も、事件の結末としては納得出来なかったが、この「今夜此処での一と殷盛り」もまた、え?これで終わりなの?!といいたくなる収まりの悪さがあって、観劇後の後味はよくない。


子役は、大正13年と、昭和22年とで、ふた役を演じていたが、演技らしい演技をしていたのは昭和22年の、探偵に調査の依頼をするために上京して来た少女・千鶴子役のほうである。が、千鶴子のときは、セリフをまちがえていい直したり、滑舌に変なところがあったりと、印象はいまひとつ。


公演グッズとして、うちわを売っていたようだが、値段がいくらなのか分からず、尋ねるのもちょっと躊躇われたので、買いそびれた。ああいうのって、売りものなのかそうでないのか、売っているのなら値段を大きく表示しておいて欲しいもの。値段を訊いたら、思ったより高かったからといって、いらないとはいいづらいしね。