花形新派公演「華岡青洲の妻」


6月18日(月)に、三越劇場

花形新派公演「華岡青洲の妻

を観劇。15時開演の回。


6月三越劇場での本公演(六月新派特別公演「華岡青洲の妻」)の期間中、18、19日の両日に、同じ舞台で、計4ステージ行なわれた次世代キャストによる公演。脇を固める出演者の何人かは、本公演と同じ配役。

戌井市郎の演出がベースのようだが、チラシによると、本公演は齋藤雅文、この花形公演は成瀬芳一の演出となっている。

チケットは、本公演が8000円(全席指定)に対して、花形公演は6000円(全席指定)と、2000円安い価格。

有吉佐和子作の「華岡青洲の妻」といえば、文学座をはじめ、東宝、松竹でも上演が重ねられて来て、商業演劇の名作ともされるが、私は、今回が初観劇。子役が出ない演目でもあり、上演されてもなかなか足を運ぶ機会がなかったが、この度は、新派の花形公演とあって、また、今回の花形公演には、2009年の舞台「おしん 青春編」や「おしん 少女編」に出演していたことで、目になじみのある俳優が何人か揃っていたことも、俄然、観劇意欲が湧いた理由のひとつ。


配役は・・・

華岡青洲 丹羽貞仁
於継 伊藤みどり
加恵 石原舞
於勝 山吹恭子
小陸 鴫原桂
米次郎 井上恭太

良庵 柳田豊
生薬屋作兵衛 鈴木章
木綿問屋小六 児玉真二
木綿問屋甚造 木内宣輝
藍屋利兵衛 児玉真二
お勘 小泉まち子
於沢 高橋よしこ


休憩中に、ロビーに並んだ花を眺めていたら、そのなかのひとつに「座長 丹羽貞仁さん」とあったことからして、本公演には別の役で出演してもいるゲストの丹羽貞仁さんが、花形公演では座長だったようである。そうかと思って見れば、チラシの顔写真もひとサイズ大きい。


松竹のサイトに掲出されていた本公演のほうの上演時間が、3時間15分だったので、そのつもりでいたら、午後2時30分に劇場に着いたときに、まだ昼の部が終わっていなかった。

ロビー掲示の上演時間は、

一幕・二幕 90分、休憩 25分、三幕 55分、休憩 5分、四幕 35分

となっていて、花形公演は、トータルで15分、(本公演より)上演時間が長くなっていた模様。

観劇回の終演は、午後6時30分ぐらい。


息子の雲平(青洲)が京都へ医者の修行に行って留守の間に、母親の於継は、加恵を息子の嫁に迎えた。於継は、実の娘である於勝や小陸よりも、嫁の加恵をかわいがり、ひとが羨むほど仲の良い嫁姑といわれていたが、雲平が修行から帰った途端、跡取り息子を溺愛する於継は、手のひらを返すように加恵に冷淡になる。
第一幕のこの場面は、見ているのが苦しくなるほどで、このままの調子で四幕まで続いたら客席にいたたまれないな、と思ったが、さすがに、そうはならず、むしろ、第二幕以降の嫁姑の戦いは、意外とあっさりした感じも。

第二幕になると、身籠った加恵は、実母には泣き言をいうものの、それなりのふてぶてしさも見せはじめ、第三幕では、雲平が開発中の麻酔薬の人体実験を通して、於継と張り合い勝利するが、その薬毒で視力を失う危機に見舞われる。そして、第四幕になると、すでに於継は故人となっていて、目は見えなくなったものの、加恵は、名医の妻として堂々たる貫禄さえ漂わせる存在に。

なるほど、この芝居は、幕ごとの加恵の変わり映えも、見どころのひとつなのだなぁ、と思った。

過去に上演されたときのキャストの序列だと、於継役がトップになっている場合と、加恵役がトップのときとがあったと記憶しているが、役者の序列はともかくとして、この作品は、タイトル通りに「華岡青洲の妻」が主役と見るべきだろう。

面白いのは、華岡青洲が、母と妻の関係を知りながらも、どちらの味方をするのでもなく、医者としての仕事に邁進し、結果として、嫁姑戦争さえも、自身の仕事に都合よく用いたように見えることだ。ある意味、これは、日本の男の普遍的な姿を象徴しているのかも知れないと思った。


青洲の妹・小陸が、いい役。作者は、義姉・加恵と母・於継とのドロドロの確執を側近くで見ていた小陸に、そんな嫁姑の関係や、「男」を支える女たちのあり方、見て見ぬ振りをしていた兄(青洲)に対しての批判精神を持たせている。小陸は米次郎(青洲の弟子)に想いを抱きながらも、嫁ぐことを厭い、彼の求婚を拒み続けることになるが、しかし、第四幕の加恵は、そうした小陸の批判の言葉にも揺るがぬ女性の強さを示して印象を残す。

以前に見たドラマや一般に知られる史実とも、けっこうちがっているところがあって、エピソードの時系列をずらしていたり、ひとつ書いておくなら、娘・小弁の死因が、村崎真彩ちゃんが出演したNHKのドラマでは水死(事故)だったけど、舞台(には子役は出ないが)では病死になっていた。

劇中に登場する猫たち(麻酔薬の実験用にたくさんの犬猫を飼っていた)は、ぬいぐるみ。紀州弁のセリフは、語尾がのし、のし、よし、よしいっていた。

「活物窮理」って、セリフにも出て来たが、後の場では、額が掛けてあった。


なお、1階客席は、1列目は撤去で、座席は2列が最前列。

カーテンコールは、井上、鴫原、石原、丹羽、伊藤、山吹、児玉の7人。