菊次郎とさき (シアター1010)


3月24日(土)に、THEATRE1010で、

菊次郎とさき
(原作:ビートたけし、脚本:輿水泰弘、演出:石橋冠)

を観劇。

この「菊次郎とさき」は、北千住公演のあとは、大阪新歌舞伎座、福岡・博多座、富山で2会場、名古屋・中日劇場と回り、ル テアトル銀座 by PARCOでの東京凱旋公演へと続く。

北千住公演は、「地元足立区お披露目公演」「足立区制80周年記念公演」とも銘打たれていて、5月まで続くツアーの文字通りのスタートとなる。その初日の舞台であった。

ロビー掲出の上演時間は、『第一幕 1時間30分、休憩20分、第二幕 1時間15分』。(休憩時間は、公演会場によって異同があるだろうし、正味の上演時間も、ステージを重ねるに連れて若干の変動があるかも知れない)

24日は、午後2時開演で、終演は5時12分頃だった。初日かつ地元公演ということもあってか、カーテンコールでは、主演のふたり(陣内孝則室井滋)からのあいさつに加えて、最後は、(陣内菊次郎の発声で)足立区万歳三唱までが付く盛況ぶり。


公演プログラムは、1000円。各公演地とも共通のようである。博多座では1か月公演となることもあってか、ナッツプロダクションが、プログラムに広告を出しているのが目を惹く。

菊次郎とさき」は、テレビドラマの舞台化でもあり、メインキャストのうち、主演のふたり以外にも、3人(梨本謙次郎、濱田マリ日野陽仁)が、ドラマ版と同じ配役で出演とのことだ。


舞台の導入部でえがかれる、菊次郎とさき、さきの義母で菊次郎にはおばにあたる北野うし(音無美紀子)、この3人の関係が興味深い。ドラマや原作を知っていれば既知のことだろうが、私は、この舞台をほとんど予備知識なく見たので、菊次郎とさきが所帯を持つまでの、それぞれの来し方のめずらしさでも舞台に惹き込まれた。

うしが若い時分は娘義太夫でならしたとか、菊次郎は継父にいじめられて家を出て、実母の死も後に知ったとか、もともとは漆塗りの職人だったのが戦後にペンキ屋に転職したというのもはじめて知った。


とにかく、主演の陣内孝則が、すばらしい!菊次郎の最初の出は客席通路からだったが、銀座でまたお目にかかりたいと、早くも5月の東京凱旋公演の宣伝を連発して笑いを誘ったりと、アドリブのキレのよさはばつぐんだし、バラエティー番組などでおなじみのキャラクターそのままに、何をいっても面白くて嫌味にならない持ち味が、役柄ともマッチして、たちまちに観客の心を掴んでしまう。これまで、舞台はミュージカルで見たことしかなかったが、今回の菊次郎のような役柄でこそ、むしろ、舞台に貴重な俳優なのではないかと思った。


第一幕は、大正12年関東大震災の翌日からはじまり、昭和22年1月18日までで、菊次郎とさきのなれそめから、末っ子のたけしの誕生までがえがかれる。
たけし役は、中島来星・大嶋康太のダブルキャスト。※3月24日は、前者の出演。

第二幕は、昭和32年〜その翌年を中心に、長女・安子(渋谷飛鳥)の結婚と、花嫁の父となる菊次郎のエピソードが、ホームドラマのクライマックスとなる。

商業演劇にありがちな人情喜劇ふうのつくりではあるのだが、説明調になりがちな過去形の話を義太夫の語りに乗せたり、転換つなぎの幕前をうたでショーアップするなど、手を替え品を替え的な演出のサービスぶりと、テンポのよさとで、旧さを感じさせない舞台になっている。
一部シーンはミュージカル仕立てで、北野四兄妹による菊次郎のうたや、さきを演じる室井滋のソロナンバーなど、いくつかの劇中歌も見どころ、聴きどころだ。


カーテンコールも、キャストのうたで大いに盛り上がったが、ここでも、陣内孝則氏によるあいさつが東京凱旋公演の宣伝となって、5月の銀座ではちがうストーリーでお見せしますなどと大ウソが炸裂し(笑)、すぐに、少しはちがうところがあるかも知れませんといい直していたが、いやはや、とにかく面白いのであった。


なお、北野大(三澤康平)役、たけし役のキャストも、幕が開いてすぐの場では、別の役での出演がある。

余談だが、THEATRE1010(シアター1010)を「しあたーせんじゅ」と読むのだと知らないひとがけっこういるらしい。「1000(千)」と「10(十)」で「せんじゅ→千住」なのだが、いまだに、シアターいちまるいちまるとかいっているひとがいるのには、おどろかされる。