卯之吉

今月の新橋演舞場 三月大歌舞伎。

昼の部の「荒川の佐吉」には、卯之吉という、子役としては大きな役がある。

「荒川の佐吉」は、今回はじめて見たが、目の見えない男の子の役を、歌舞伎の子役はどんなふうに演じるのかという興味があった。

じっさいに見てみると(初日の2日は、堀川恭司くんの卯之吉)、あんなにシンプルにやるものかと、軽いおどろきとともに、芝居というのは、むずかしくつくり込めばいいということでもないのだな、と思った。

目の見えない役と聞くと、三重苦のヘレン・ケラーさながらに、天才肌がひと一倍の集中力で演じる、みたいなことを想像してしまいがちだが、「荒川の佐吉」を見ていて、年少の子がシンプルに演じることで、かえって、その健気さが引き立つ、という印象も受けた。
目の見えない子の立ち居として、様式的なものもあるのだろう。(たとえば、「籠釣瓶」の小按摩の歩き方とか)

「荒川の佐吉」には、他に見物の子供という役もあるが、これは、開幕してすぐ、本舞台の上手から下手へと、小さい男の子(今月は女の子が演じている)が先に出て来て、後から女の子が出て、ふたりの出演は、以上。こういう、あっという間の出番は、歌舞伎にはありがちだ(あ…後の場で、子どもの「声」があるのかな?)。