タカセの夢(シアタートラム)


8月10日(水)、11日(木)は、シアタートラムで

「タカセの夢」(振付・演出:メルラン・ニヤカム)

を見た。

SPAC-静岡県舞台芸術センターが企画・主催する、コンテンポラリーダンスの東京公演で、両日各1回ずつ、計2ステージが行なわれた。

全席自由。一般チケットは4000円だったが、発売初日に買ったら、早期購入割引とかで3500円になっていたので、おどろいた(そんな割引があるとは知らなんだ)。

会場掲示の上演時間は、1時間20分。(じっさいは、もう6、7分長かったのではないか…)


11日の開演前には、演出・振付をしたメルラン・ニヤカム氏が登場してのプレトーク(聞き手の舞踊研究家の女性と、通訳の女性と、計3人での進行)があったが、開場が10分ほど遅れたため、プレトークも予定したよりも短時間となったようだ。

メルラン・ニヤカムはカメルーン出身で、フランス在住。プロフィールによると、ダンサー、コレオグラファーというだけでなく、歌手、俳優でもあるようだ。この「タカセの夢」が、踊りだけでなく、セリフやうた、映像や小道具を用いて、とても演劇的なパフォーマンスであるのもそのせいだろうか。

オーディションで選ばれたダンサー(スパカンファン)の10名は、静岡県内の高校生6名、中学生4名だが、このうちの4名は出演以前にはダンス経験がなかったとのことだ。

プレトークの終わりに、メルラン・ニヤカム氏から、出演者のうちの女の子ひとりが体調不良で休演することになったので、9人で上演するとの告知があった。開場が遅れたのは、おそらく、その影響だったのだろう。

前日の10日公演は、10人とも出演していたが、何回かのカーテンコールのいちばん最後に登場してステージに並んだときに、10人だった出演者が9人になっていて、あれ?と思ったのだったが、そのときすでに何か兆候があったのかな。

11日の公演に出演した9人も、前日のステージではしていなかったテーピングをしているダンサーが何人かいるなど、関東は猛暑もピークだった折柄、地元を離れての公演&ダンスのハードさを窺わせた。


外国人のプロダンサー兼振付家が、ティーンの日本人アマチュアダンサーを起用したコンテンポラリーダンスの公演というと、どうしても、バレエノアの「紙ひこうき」が思い浮かぶ。「紙ひこうき」のダンサー11人は必ずしも女子高生ばかりではなかったようだし、バレエの基本を修得していたメンバーが出演していたので、単純な比較はむずかしい点もあるが、「タカセの夢」と「紙ひこうき」を較べると、共通項を持ちつつも、対照的な部分が多くて、興味深い。

「紙ひこうき」と「タカセの夢」はどちらも、ダンサーは踊るだけでなくセリフ(あるいは、うたも)を発し、マスクや小道具を使い、映像が用いられ、白布の向こうでダンサーが影絵で演じるなど、演出の技法では重なるところがある。しかし、作品全体から受ける印象は、大きくちがう。

日本の女子高生の人間関係や学校生活の閉塞感など、思春期の女の子の感情や心象、生態の諸相をダンスに切り取り、表現した「紙ひこうき」は、特定の世代と集団の特性や空気といったものを掘り下げた作品だったが、「タカセの夢」は、日本の中・高生が演じながらも、全体の雰囲気はどこか無国籍風で、世界へ向かって、かつ、広い世代へとひらけている。「タカセの夢」で、10代の子どもたちが老人を演じたり、演技スペースを取り囲む映像に現れる幅広い世代の人びと、また、過去の歴史や世界の現状を想起させる映像と年若いダンサーたちが融合する躍動感からは、若い生命が、長い人間の歴史や広い社会との関係性のなかに、たしかに存在していることを思わせた。

「タカセの夢」には、シリアスな現実をデフォルメしたような踊りもありながら、総じて、南国っぽさに彩られて明るく、見終わったあとは暖色のイメージだ。これは、コレオグラファーの資質に加えて、10人のダンサーのなかの「黒一点」である男の子に、タイトルロールを担わせていることも大きいのではないか。「タカセの夢」のタカセは、その男子中学生の姓であるが、一見、取り立てて目立つところもない少年のたたずまいが、作品に普遍性を持たせるとともに、なかなかの「味」になってもいた。

そのタカセくんは、オープニングでカバンを渡されたあと、お客さんと挨拶しながら握手をするが、2回公演とも同じ座席のお客さんとだったので、あれは、どの座席のひとと握手するか、あらかじめ決めてあるのだね。


[出演]

スパカンファン(秋山実優、猪山菜摘、櫻井奏子、高瀬竣介、南條未基、増田理子、宮城嶋静加、宮城嶋遥加、村瀬瑠美、渡邊清楓)


それにしても、両日とも、開演が遅過ぎると思う(10日が午後7時半、11日が午後7時開演)。上演時間は、1時間30分もかからないとはいえ、夏休みなのだから、どちらか1回でも昼公演にして欲しかった。それが無理なら、せめて6時半開演には出来なかったものか。10日にはアフタートークがあったようだが、参加しなかった。時間が遅くなると、舞台の余韻を楽しむよりも、帰りのことを考えてしまって、気忙しい。