紅き深爪


5月29日(日)は、雨のなかを午後から出かけて、

風琴工房code.29「紅き深爪」(詩森ろば 作・演出)
http://windyharp.main.jp/tsume/

を見た。

会場は、渋谷のギャラリーLE-DECO 4F。エリア指定での自由席。50人入れば満員かな…(ちゃんと数えてはいないので、およそだけれど)。

渋谷までは湘南新宿ラインを利用したので、駅を出ると会場まではすぐだった。狭い階段に並んで入場待ちをしていたとき、下の階から、ここのギャラリーは有名で…とか説明している声が聞こえて来たから、きっと、ギャラリーとしては知られているスペースなのでしょう。私は、こういうギャラリーで演劇を見るのは、はじめてかも。5Fでも、この日は演劇公演をやっていたらしい。


意識をなくして眠ったままの母親(50代)が入院している病室が舞台。その母親に虐待されて育った姉妹の姉は妊娠中。妹には小学生の娘(これが、大塚あかり)がいるのだが、彼女もこの娘を虐待している。親が子どもを虐待し、虐待されて育った子が親になってまた自分の子どもを虐待するという、いわゆる虐待の連鎖をえがいた芝居。

一見したところ、不良っぽい姉と優等生ふうの妹という、学生時代を引きずったままのような姉妹の対照化や、姉妹のパートナーもそれぞれに、夫、あるいは父親として欠落したところのある人物で、そうした相手を選んでしまうのもまた少女期の虐待が影響しているのだろうと想像させて、構図としても分かりやすい。

虐待の再生産は、最近では一般的な通説のようにもなっていて、この芝居は、そうした親から子へと繰り返される虐待の連鎖を、類型的な設定とミステリー的な仕掛けでコンパクトに劇化している。1時間のドラマの行き着く先に待っていた結末はあまりにも愚かしくて、空虚感が漂うような幕切れには、小スペースでの演劇ならではのものがあっておもしろかった。

劇中には、妙に見る者の感覚をザラつかせる行為やモノが仕込まれていて、それが小スペースの濃密さと合わさって独特の効果を醸し出すのも、演劇的で、上手いやり方だと思った。
たとえば、リンゴが嫌いな私は、冒頭での、リンゴの皮を剥く行為を見ているだけで気持ちを逆なでされるようだったし、ガーベラを見て、なんてチープに飾られているのだろう…と思っていたら、その花が子どもを叩く「凶器」に変わるという不気味な安っぽさ。芝居のタイトルでもある「紅き深爪」の件りに到ったとき、そのシーンを見ながら、自分がまさに深爪を切ったかのような軽い耐えがたさをおぼえるなど、いやな感覚を衝かれるようなところが何度かあった。


舞台で大塚あかりちゃんを見るのは、「サウンド・オブ・ミュージック」以来で、2度目。(大塚あかりちゃんが演じていた知奈という役は、過去の上演ではいわゆる子役を使ってはいなかったようだ)

別の座席で、もう1回見たかったな。どこに座るかで見え方がかなりちがうよね、この公演の場合。私の座位置からでは見えなかったものが多分ある。


終演後に、「紅き深爪」の台本を1000円で販売。開演前に売らないのは、ネタバレ防止のため?


それはそうと(以下は全くの余談)、私は、虐待ものって、かなり好き。最近読んだミステリーだと、第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞の2作品と、第9回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞が虐待ものだった。島田荘司選の前者はどちらも面白かったが、後者について茶木則雄が絶賛しているのは、謎。