戦後落語史


吉川潮「戦後落語史」(新潮新書、700円税別)

東京限定の「戦後落語史」で、大阪の落語界にはふれていないが、大変に面白く読める。

落語そのものにはほとんど関心がないが、落語家や落語界の人間模様には興味があるという私のような読者が、戦後の落語界における噺家たちの栄枯盛衰について概観的な知識を得るには、じつにもってこいの本である。

初っ端から、蝶花楼馬楽林家正蔵を襲名することになる件りが登場し、馬楽の「誓言」まで載っている。私はその経緯をようやく知った。三平物語の類では、「一代限り」とはいえ、正蔵の名前を持って行った関係者たちが悪役にえがかれたりするが、そう単純なものではなさそうだ。

どうして東京の落語界が、落語協会落語芸術協会、円楽一門、立川流に分かれているのか。落語協会が分裂する原因となった真打昇進制度の問題など、門外漢には何があったのかよく分からずにもやもやしていた点を含めて、落語界の流れが一望出来る。

概観とはいえ、戦後の落語史が何人もの名人・人気者たちによって綾なされて来た、その人間ドラマも充分伝わって来る筆致が、読ませる。

巻末の年表が、親切。欲をいえば、噺家の名前の読み方が分からないことがあるので、振り仮名があればなおよかったが。