ゆーりんプロ創立20周年プロデュース公演 藤原一族の野望「かぐや姫」(内幸町ホール)


すでに、先々月のことになるが、10月20日(月)に、内幸町ホールで、

ゆーりんプロ創立20周年プロデュース公演 藤原一族の野望「かぐや姫
  (脚本:よこざわけい子、演出:北斗誓一、音楽:石山理)

を見た。過去ログのこの(http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20080918/p2)公演である。


つい先日のこと、新潮文庫の新刊として出た、関裕二「藤原氏の正体」(親本の刊行は、平成14年12月)という本を読んでいたら、その内容や解釈が、藤原一族の野望「かぐや姫」という芝居のストーリーや設定にずい分影響を及ぼしていると思われて、興味深かったこともあり、今更ながら、簡単に雑感。


この舞台「かぐや姫」は、藤原不比等の政権掌握の野望と、その犠牲になるヒロイン・かぐやの悲劇が絡みながら進行するが、かなめは「竹取物語」の位置付けだ。

たとえば、上記の「藤原氏の正体」では、「竹取物語」を藤原不比等糾弾の物語であるとし、その作者について紀貫之説を持ち出すなどしているが、舞台「かぐや姫」では、「竹取物語」の作者を伊預部馬養の子息・島人(しまひと)と設定していた。

伊預部馬養は大宝律令の作成に携わり、また「浦島太郎」の作者ではないかともいわれる。舞台ではこの説を採っていて、その子・島人を父と同じような物語作者になりたい、いわば作家志望の青年にしている。

藤原不比等によって殺された大津皇子の遺児がかぐやであり、かぐやは伊預部馬養に救われ、島人とは兄妹のように育つことになる。そして、島人とかぐやは、お互いを想い合う仲になるが、伊預部馬養には藤原不比等から律令作成にあたっての圧力がかかって窮地に立たされ、かぐやはそのたぐい稀な美しさゆえに宮中に召されるが、大津皇子の遺児であることが知れると、不比等の政権簒奪のための道具とされ、さんざんにもてあそばれた挙句、無残に散る。

舞台では、慕い合いながらも引き裂かれるかぐやと島人の悲恋がえがかれ、ふたりの気持ちをつなぐ糸(絆)になるのが島人の作る物語であり、最後に、汚されて散ったかぐやへの鎮魂の物語として「竹取物語」が完成する。ゆえに、「竹取物語」のかぐや姫は、きたなき所の誰れのものにもならずに、美しいままもとの世界へと帰って行く訳である。

島人からかぐやへ捧げられた「竹取物語」が、汚れ役とも見えるヒロインを、まさに天上へと昇華させる結末になっていた。


出演の子役は、

子供島人: 西田欧誼(シングル)
幼児島人: 半田将太郎・石黒海斗(交互出演)
子供つる: 臼木淑乃(シングル)
幼女かぐや: 岸田海音・平井花南(交互出演)

観劇回の出演は、西田くん、半田くん、臼木さん、岸田さん。

つるというのは、伊預部馬養の後妻の娘。島人のことが好きなので、島人と仲のよいかぐやにやきもちを焼き、大人になると、ふたりの間を引き離すのにひと役買うという役。

子ども時代のシーンは短いのだが、あとになって、子供島人と幼女かぐやの睦まじい様子が、回想・イメージシーンとして実演されて、島人とかぐやの結ばれぬ姿との対比が効果的だった。