謎手本忠臣蔵


読んだのは、少し前になりますが・・・


加藤廣「謎手本忠臣蔵」上・下(新潮社、上巻1800円・下巻1700円それぞれ税別)

週刊新潮」に連載されたものをすぐに本にしたようで、10月末の刊行。なぜ、浅野内匠頭吉良上野介に殿中で斬りかかったか、に関する新解釈が売りものということになっている。

将軍綱吉の意をうけた柳沢吉保による桂一計画(桂昌院従一位を、という朝廷への働きかけ)の進行中、それを知った浅野が、対朝廷交渉を担っていた吉良に斬りつけたという推測なのだが、具体的に吉良と浅野の間にどんなやり取りがあったかは不明のままで書かれない。
これは小説なのだから、両者の間で何があったのかを、それこそ見て来たように書いてこそ、謎解きといえるのであって、何が原因で刃傷が起きたかが、結局小説のなかでも推測止まりでは、呆れるしかない。

家康が福島正則に与えた「神君の密書」などという思わせぶりなものまで持ち出しておいて、こちらについてもはっきりさせないままでの幕引き。

小説としては中途半端のきわみで、読者を莫迦にしているとしか思えない。小説ではなく、歴史エッセイとしてでも書き直したほうがいい。