小林幸子特別公演「魔術の女王 天勝物語」/「'08華麗なる幸子の世界」(10月、明治座)


今月(10月)は、明治座で、

芸能生活45周年記念 小林幸子特別公演「魔術の女王 天勝物語」/「'08華麗なる幸子の世界」

を3ステージ観劇したので、以下、その雑感。


初日(4日)、28日昼・夜、いずれの公演でも、客席に入ると、緞帳に『満員御礼』のたれ幕が下がっていた。劇場の玄関付近に『満員御礼』の表示が出ているのはよく目にするが、緞帳にたれ幕としてかかっているというのは、私は、はじめて見た気がする。
実際に座席が完売していたかどうかは知らないが、3階席にいた28日昼の部には、立見も入っていたし、客入りがよかったことはたしか。


上演時間や出演の子役はすでに書いたとおり。
  →http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20081005/p1
また関連ログ(「天勝物語」の資料サイト)は、
  →http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20081028/p2


第1部は、小林幸子が松旭斎天勝を演じる「魔術の女王 天勝物語」

プログラムの、脚本・演出者(金子良次)のことばによれば、松旭斎天勝の一代記や芸談をもとにしているが実録物語ではなくフィクションだという。

のちに天勝となる10歳のおかつ(小野緒芽)が借金のかたに松旭斎天一の一座へ連れられて行くプロローグからはじまり、関東大震災の被害を乗り越えた天勝一座が海外公演を成功させ帰国する大正14年までがえがかれる。戦前の、明治・大正・昭和を生きた天勝の、明治〜大正までをドラマに仕立てたかたちである。

どこまでが事実でどこからが脚色かを見極めるだけの知識は私にはないが、この舞台での天勝の半生は、上がり下がり(幸・不幸)の起伏が分かりやすい波状で展開して、大劇場で見る娯楽劇としては充分に面白い。


料理屋への奉公だと騙されて奇術の一座へ売られたおかつだったが、松旭斎天一(若林豪)の弟子として修行を積み、天勝を名乗って人気が出る。が、姉弟子で天一の愛人でもある杉江(眞乃ゆりあ)の嫉妬を買い、濡れ衣を着せられて、自殺未遂をはかる。

命は助かり、疑いも晴れた天勝は、天一に海外巡業を提案、アメリカへ渡った一座は、苦労を重ねながらもやがて評判をとり好条件でエージェントと契約、ヨーロッパ進出も決まる。が、兄弟子で天一の養子の天二(松山政路)は、スライハンドのマジックを究めたいと、妻(有沢比呂子)とともにアメリカにとどまることを選択、他の弟子たちも一座を離れる。

ふたりだけになった天一、天勝だがヨーロッパ巡業を成功させ、5年ぶりに日本へ戻ると天勝は大いに歓迎を受け、天一一座も隆盛を極める。が、ヨーロッパ公演中に天一と天勝は師弟を超えた関係になっており、天一の本妻である梅乃(宮園純子)との確執に悩む。さらに、帰国して一座に復帰した天二は、天勝によるショー的要素の強い出しものを嫌い、両者の対立は深刻化、病を得た天一が天二を後継者に指名すると、天一の引退を機に天勝は一座を去る。

天勝を慕う座員は多く、プロデューサーの野呂辰之助(江藤潤)の力も得て、天勝一座を旗揚げ。新聞記者出身の牧村(中村繁之)のアイデアでマジック入りの童話劇を演目に加えて幅広い観客を獲得、野呂との結婚で気持ちの安定も得た天勝が、いよいよ天勝一座としての海外公演を果たすべく準備をしていた矢先、関東大震災に襲われる。

道具や衣裳が燃えただけでなく、夫の野呂を亡くして失意に暮れる天勝だったが、東京市から被災者復興のための公演を依頼される。野外での水芸にためらう天勝の前に、かつての兄弟子・天二が現れ、協力を申し出ると、過去のわだかまりも解け、天勝一座の新たな出発となる。

最後は、大正14年の帝劇公演になぞらえて、イリュージョンでの締めくくり(この舞台には、松旭斎を名乗る女性マジシャンがふたり出演してイリュージョンを担っている)。


天勝一座の公演で、マジックを織り交ぜた劇を「奇術応用童話劇」とか「奇術応用サロメ劇」などと称したようだが(サロメ劇は小山内薫演出とあった)、この「魔術の女王 天勝物語」という芝居自体が、奇術応用劇になっているという趣向でもあろう。


御園座博多座と公演を重ねて来た舞台だけに、存在感のあるベテランをはじめ、共演陣も手堅い印象。


明治座らしく、展開には幕前芝居も多く(手品も織り込まれていた)、また、脚本・演出が同じひとで、実在の人物が主人公、生きた時代も重なるとあってか、幕前の使い方、写真やポスターなど資料を映写してのナレーションなども含め、以前に明治座で上演された「長崎ぶらぶら節」(石川さゆり特別公演)に似たつくりも見受けられた。

たとえば、芝居の冒頭の幕前で、子役のおかつが、天一一座のお仲(行友勝江)に連れられて行くシーンは、「長崎ぶらぶら節」で子役のサダ(のちの愛八)が丸山に売られて行く場面を思い出させる。今回の「天勝物語」では舞台の下手から登場して上手へ入るが、「長崎ぶらぶら節」では上手から出て下手へ歩いたというちがいはあるにしても。

さらに子役がらみでいえば、みなし子になって天一一座へやって来たおミヨを天勝が励まし、かわいがるのは、「長崎ぶらぶら節」での愛八とお雪チの関係を彷彿とさせる。


さて、劇中のセリフによれば、おかつは、『10年年季で25円』のかたとして奇術の一座で働くことになる。
(ここで天一への弟子入りを10歳と設定したのは、小林幸子さんが古賀政男に弟子入りしデビューした年齢と同じに、ということだったのだろうか?)


子役のおかつを演じた小野緒芽ちゃんがとてもいい。三つ編みにした髪の毛の先っぽに赤いリボンを結んでいた。あくびをするしぐさはかわいいし、のどがかわいた様子を見せて、お仲から水筒を受け取り、水を飲む。この一連の演技を何であんなに上手くやれるのか、と思う。もう泣かないとおかつが子ども心に決意するまでの演技、セリフも過不足なく、ほんの数分の出演だが、幕を上げる前のエピローグとして上々のすべり出し。
最前列でも見たので、小野緒芽ちゃんの演技を堪能した。




第2部は、歌謡ショーで「'08華麗なる幸子の世界」(構成・演出・イリュージョンデザイン:デューク松山、振付:麻咲梨乃)。

前半は、話題の装置「ハイパークレーン幸子」や巨大カタツムリ「エスカルゴ幸子」の登場など、スペクタクルで魅せるとともに、ダンサーを多用してのショーアップしたステージで楽しませる。ステージ上での衣裳替えにも目を奪われた。

「ハイパークレーン幸子」は、花道に仕込んだクレーンが起き上がり、消防のはしご車のように伸びる。その先端に乗って座長さんが1曲うたう。下手の花道から伸びるので、上手方面までは行かないが、高さは、3階席のちょっと下ぐらいまで上がるので、これは見ものである。
1階席からだと、まさに仰ぎ見る格好になり、ただ見上げるしかない状況。花道から乗って、また花道へ降りて来ると、クレーンはきれいに収納され、手すりと安全装置(?)を外すと、そのまま本舞台へ歩き、続けて「エスカルゴ幸子」に乗り替え。いつの間にか衣裳も替えてしまう。「エスカルゴ幸子」は、なにしろカタツムリなので不気味であるが、周りをちょこちょこと動き回る小さいエスカルゴ2匹もおもしろい。

花道の近くの座席だと、第2部開演前に、係員が来て、「ハイパークレーン幸子」の起動中は危険なので立ち上がったり近づいたりしないで下さい、というお達しがあったりする。

大がかりな装置の見どころもさることながら、「♪もしかして」マーチバージョンでのカラーガード(フラッグ)のダンスの楽しさも格別だった。


イリュージョンを挟んで、後半は、リサイタルスタイルで、トークを交えながらヒット曲を聴かせる。

トークでは、客席にご来場の芸能界のお友だちの紹介があって、初日は片岡鶴太郎。28日昼の部は森昌子坂本冬美佐々木健介夫妻が観覧とのことだった。

45年の芸能生活を振り返るスライド(映像)でつないで、ショーの最後は、昨年末の紅白の再現で閉めくくる。


最前列にいると、舞台からのスモークがものすごくて、たくさん浴びた(笑)。これもまた、醍醐味のひとつ。