それでも俳優になりたい


北川登園 大島幸久「それでも俳優になりたい」(春日出版、1800円税別)

春日出版
http://www.kasga.co.jp/index.html


演劇評論家2氏による、舞台俳優になりたいひとのための案内本。この養成所ではこんなレッスンをしているとか、あの劇団にはどんな特長があるとかの紹介になっている部分はあるが、総覧的なガイドブックの類とはちがう。

歌舞伎、新劇・現代劇、小劇場、ミュージカル、宝塚歌劇、シニア俳優の6章に分けて、成功、活躍中の俳優や演劇人の生き方、この道を志したエピソードなどを取り上げたり、また、各ジャンルで代表的といえる劇団、養成所等の来し方や現状を見渡しながら、現代日本の演劇の諸相を概観するような内容だ。

俳優、演出家のインタビューがいくつか収録されているのは、読みどころといえるだろう。表向きは俳優志望者のための参考書だが、観客の立場で読めば、現在の演劇の状況を広く浅くおさらいするのにいいかも知れない。

著者の2氏が章ごとに分担して書いていて、ところどころ、新聞記者出身らしい視点や、警句的な文章が入っていて、目が留まる。


たとえば「歌舞伎俳優篇」では、中村時蔵市川右之助、尾上辰緑のインタビューが載っている。

国立劇場の歌舞伎研修生を指導する立場で時蔵、部屋子の経験者として右之助(俳優の家に生まれたが父が廃業後に市川寿海の部屋子になり初舞台)、中学卒業後にとくに縁故も経験もなく二代目松緑の自宅を訪ねて弟子入りした辰緑。それぞれの立場からの発言は興味深い。

また、松尾塾子供歌舞伎が紹介されている。中村翫雀に入門し、2006年10月に初舞台を踏んだ中村翫政は、松尾塾子供歌舞伎の卒塾生。子役の養成が目的ではない松尾塾子供歌舞伎から歌舞伎俳優が誕生したのははじめてのケースとのことだ。


他にインタビューは、自らレビューアカデミーを開設した鳳蘭、シニア劇団さいたまゴールド・シアターを手がける蜷川幸雄、劇場付属の養成所として開講した明治座アカデミーのミドルシニア部で講師をしている大河内日出雄。

このなかでは、蜷川幸雄が、プロとは何か?の質問にこたえて、

『演劇の場合、毎日、同じことが出来るのか、それが絶対条件。いい時、悪い時、その差がなく出来ること。辛いのは、毎日やることです。』

といっている。これを読んで、子役にもそのまま当てはまることだ、と思った。