劇団東俳むげん工房「法廷の銃声」を観劇。


6月24日(火)に、東京芸術劇場 小ホール2で

'08劇団東俳むげん工房・盲導犬支援チャリティー公演「法廷の銃声」(原作:リチャード・スペイト、脚本・演出:新美正雄)

を見た。

 過去ログのこの公演(http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20080614/p1)である。

チラシには「全席自由」とあったが、じっさいは当日指定席で、受付は、開演の1時間前から。

いい具合に、受付開始の直前、つまり、6/24の5時半前頃に会場に到着したが、すでに30人くらいのひとが並んでいた。順番が来ると、持っているチケットを見せて、座席指定券をもらう。あとは、開場を待つというかたち。

プログラムの販売や配布はなし。チラシに出演者の顔写真、役名も載っているから、とりあえずはそれを見れば、必要最小限の用は足りる。

観劇日は、初日だったので、その後、上演時間は多少の変動があるかも知れないが、6月24日は、

6時30分開演で、一幕が7時25分まで、10分の休憩があって、二幕(+カーテンコール)の終了が、ちょうど9時ぐらい。


父ビル(柴田好之)、母キャロル(鉾田智子)、兄ジェフリー(亀田恭吾)と暮らす12歳の少女ウェンディー・ロジャース(平本亜夢)は、ある日の放課後、兄の迎えが遅れた隙に、フランク・ジョーダン(浅利陽介)という若者の手にかかって無残にも殺される。犯人は逮捕されるが、逮捕時の手続きの不手際から、ウェンディー殺害を認めたフランクの自供は証拠として採用されず、犯人は自供を翻す。フランクの弁護人となった腕利きの女性弁護士マギー・マクファーソン(おかもとけいこ)は、フランクは心神喪失責任能力がなかったと主張、フランクの母べス(東久美子)の過去や子育ての失敗を情状証拠としつつ、検察側と争う。マギー・マクファーソンの事務所で働くエレン・ヘイス(菅原祥子)は、幼い子を持つシングルマザーで、マギーとともに被告人フランクの弁護人となるが、非道な犯人を無罪にしようとする立場に疑問を抱き、悲しみに暮れるウェンディーの家族、とくに母キャロルには同情的だ。公判は進み、陪審員は、フランク・ジョーダンを無罪とする評決を下し、絶望したウェンディーの母キャロルはバッグに忍ばせていた銃でフランクを射殺する。というところで第一幕が、了。

保釈金を積んで自宅へ帰ることが出来たキャロルだが、法廷に銃を持ち込み殺害に及んだ事実は重大で、有罪は免れないかと思われるなか、キャロルは自身の弁護人を、エレン・ヘイスに依頼する。彼女はマギー・マクファーソンの事務所を出て独立したばかり。フランクの弁護人だった自分が彼を殺したキャロルの弁護をすることを最初はためらうエレンだったが、ついにその依頼を受け、法廷に持ち込まれた銃が、自殺を考えながらも決し得なかったキャロルがバッグにしまったままにしていたものだったことも判明する。そして、エレンは、娘ウェンディーの殺害犯が無罪になったことに絶望したキャロルが、一時的な心神喪失に陥っていたのだとし、彼女の無罪を訴える。
が、やり手の検察官ハリー・ダグラス(小椋一広)は、彼女たちの主張の前に立ち塞がり、キャロル側の劣勢で結審するかと思われたとき、フランクの母べスが発言を求めた。

被害者の母から犯人になってしまったキャロル。犯人の母から被害者の母になったべス。ふたりの母親の想いが交錯するなか、果たして、キャロルは無罪の評決を勝ち取れるのか…

と、いささか長くなったが、およそこんな話である。


この「法廷の銃声」は、劇団東俳の公演としては再々演になるようだが、私ははじめて見たし、原作(1988年に新潮文庫で翻訳が刊行されていたようだ)も知らないので、どんな判決になるのかと、この法廷劇を結末まで、スリリングに楽しんだ。
場面転換にも時間をかけない工夫がある。

犯人が心神喪失という理由で無罪になったことに絶望して犯行に及んだ被害者の母を、同じ心神喪失で無罪に持ち込もうとするという仕掛けが面白い。新しい作品ではないが、テーマは、いまの日本の社会状況とじつにタイムリーに重なり、また、裁判員制度の開始を間近に控えた国に住む者として、考えさせられるものがあった。

そんな素材の面白さに対して、芝居としては、いくつか憾みもある。まず、出演者の演技の力量(とくにセリフ)の差が顕著なこと。法廷劇の展開に比して、ロジャース家の家族のシーンが表面的に見えること、また、一部それらしくない配役も気になった。評決後が、キャロルと、その友人でもある牧師(中野史祥)とのシーンになり、神がどうこうという話に収斂させる終わり方は、日本の観客に見せる舞台としてはやや疑問。作・演出が商業演劇を手がけているひとだからか、小劇場でのストレートプレイなのに、法廷外の対話の場面で、登場人物が客席に正対してセリフをいう時間が長かったり、転換つなぎの幕前のようなシーンがあったり、不自然に感じる部分もあった。
原作がどう書かれているかは知らないが、この内容なら、女性弁護士エレン・へイスを主役にして、その視点からえがいたほうがすっきりするのではないか?


出演者では、エレン・へイス(東俳の劇団員のひとですね)、その先輩のベテラン女弁護士マギー・マクファーソン、第二幕での地方検事ハリー・ダグラスを演じた3優が、いい。いずれもセリフに説得力があり、舞台を締めている。


舞台は、ロジャース家4人によるイメージシーンが付いて幕となるが、緞帳が上がると、ウェンディー・ロジャースがスポットライトを浴びていて、一瞬、平本亜夢ショーでもはじまるのかと思った(笑)。

カーテンコールは、子役を含めたオールキャスト。大人より子役が後から出て、最後から2番目が平本亜夢ちゃん、最後に浅利陽介くんが登場という順番。フランク・ジョーダンというのは犯人でもあり、一幕にしか出ない役だが、チラシでの扱いからしても、要するに、上置き、ということで、カーテンコールは最後に登場なのだろう。


劇団東俳が自主公演でこんな舞台をやっていたというのは発見で、今回、足を運んでみてよかった。