蝉しぐれ(明治座) 千秋楽


5月29日(木)は、明治座で「蝉しぐれ」(原作:藤沢周平、脚本:金子成人、演出:金子良次)を観劇。

この29日が、千穐楽

公演プログラム、1000円。

11時開演。

上演時間は、「第一幕 55分、幕間 30分、第二幕 50分、幕間 30分、第三幕 75分」で、普段の明治座公演と同様に、30分の休憩2回を含む4時間。

この日は、オールキャストのカーテンコールが終わったのが、午後3時8分頃だった。

出演の子役については、すでに情報をいただいていましたが、件の過去ログに役名を追記しておきました。
 →http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20080505/p3


第一幕は、牧文四郎(福士誠治)とその朋友の小和田逸平(崎本大海)、島崎与之助(内野謙太)の前髪時代。文四郎の父助左衛門(松山政路)が藩の跡目をめぐる派閥抗争に巻き込まれて切腹。幼なじみのふく(北川弘美)が江戸の藩邸勤めに出るところまで。

第二幕では、元服を済ませた文四郎は母登世(野川由美子)とのつましい暮らしのなか剣の腕をみがき、郷方回りに取り立てられて家禄が旧に復す。ふくが江戸で殿様の御手付きになったことを知った文四郎は、初恋の想いを断ち切って縁談を受ける決意をするが、藩内では再び派閥抗争のきざしが見えはじめる。

第三幕は、藩主の側室として領内に戻ったふくに子が出来たために藩の跡目争いが再炎。その渦中に置かれた文四郎は、逸平や与之助、交誼を結んだ布施鶴之助とともに、ふくを救出し、かつて父を切腹に追い込んだ里村家老(横内正)やその一派と対決する。


著名な時代小説を原作に、およそこんな構成。芝居そのものが面白い上に、千穐楽とあって、舞台も練れていた感じ。

そして、なんといっても、主役の「オトコマエ!」のひとが、清新な好漢ぶりで魅力たっぷりだ。舞台に対して誠実そうな佇まいも、いい。三幕いずれも、文四郎の立ち姿で幕を下ろすかたちで、若い座長を引き立てる演出。第一幕の少年時代、前髪姿も違和感なく演じ、見せ場の殺陣も爽快な迫力だ。


回り舞台による無駄のない転換や、幕前にも緊張感のあるシーンを持って来ていたりと、上演時間に比して長さを感じさせない運びもよかった。たとえば、開演してすぐの祭りの場から喧嘩のシーンへの流れは、導入部としては上手いつくりをしていて、観客を舞台の世界に惹き込む。

主役のひとの人気なのか、千秋楽だからリピーターのファンが多かったのかは分らないが、明治座にしては若い女性のお客さんも目立ち、また、シーンの終わりや立ち回りではタイミングよく拍手が沸くなど、総じていい雰囲気に包まれた公演だと思った。

その殺陣は「井上謙一郎」とあるので、見ごたえのある殺陣をつけたのは、明治座アカデミーで教えているひとですね。井上謙一郎というと、田村正和公演などにも脇で出ていた役者さんですよね。
(参照。→http://enavichuo.exblog.jp/6371379/)


おふく役の女優さんは、第一幕の少女時代をとても上手く演じていたのが印象的。その反面、第三幕の出演では、藩主の側室であり、最後の場ではさらに年を経ているのだが、声が若い娘のままなのは残念。声のトーンやセリフのいい方で、身分の変化や、時の流れを表現して欲しかった。マイクを使っていたので、かえって声そのものが強調されてしまっていたかも知れない。

とはいえ、終幕、20年後のエピローグ的な場では、おふくが文四郎の胸でじつにタイミングよく涙を流したのは、びっくり。びっくりといえば、同じ最後の場では、文四郎の襟足からの汗だろう、衣裳の襟がぐっしょり濡れていた(剣戟シーンのあとだから)。

文四郎とふくのシーンといえば、第一幕で、ふくがへびに手を咬まれたというところ。文四郎が川のなかからへびを引っぱり出したのは、おもしろかった。あんなところにへびを仕込んであって。


矢田淑江(舞風りら)の弟、布施鶴之助といういい役どころで出ていた荒木健太朗というひとは、昨年7月の、東京スウィカ「東風コチ 夕立 土用波」で写真屋の息子役を演っていた役者さんでしょうか。
(「東風コチ 夕立 土用波」→http://d.hatena.ne.jp/kamuro/20070706/p5)
立ち回りも、様になっていた。


冒頭の祭りのシーンで、子役の女の子が食べていた「だんご」は、リアルなおだんごとはちがって、けっこう大きいのが3つ串に刺さっていた。演じる堀春菜さんが本当に食べていたが、舞台が回ってからも全部食べたのかしら??


セットの配置や上手・下手の使い方がしっくりしないところがあって、ちょっと気になったが、これは歌舞伎の舞台にとらわれ過ぎなのかな…。


千秋楽のカーテンコールは、ダブルキャストの子役も含めてのオールキャスト。

子役は、下手の端のほうに、この日出演の半田航太郎くん、堀春菜さん。ふたりは、第二幕(牧文四郎の隣家に引っ越して来た杉原家の兄妹役)での拵えで。上手の端に、(初日の出演だったという)樋口真くん、鶴見愛莉さんが、こちらは第一幕の祭りの場の扮装で並んだ。

メインキャストの登場はひとりずつで、ベテランよりも若手の4人があとに出る順序。主役だけでなく、若いキャストを立てたカーテンコールに好感をおぼえた。福士誠治さんのあいさつがあって、オールキャストが上、下、正面と客席三方へ礼あって、幕。その後、もういちど緞帳が上がって、カーテンコールは、了。お客さんは、スタンディングオベーションも少なからず。

外は雨の一日だったが、気持ちのいい舞台だった。


これは余談。今月は、尾上菊之助坂東亀三郎が團菊祭ではなくシアターコクーンに出演していましたが、前進座女形(河原崎國太郎)も前進座国立劇場公演ではなく明治座へ、主人公の上役でのご出勤だったのですねぇ。


ところで、下記のブログに、子役の子も紹介されていますね。
http://labo-mugen.seesaa.net/