松竹大歌舞伎(巡演)「袖萩祭文」「吉野山」


10月30日(火)に、浅草公会堂で、市川亀治郎主演の松竹大歌舞伎「奥州安達原 袖萩祭文」「義経千本桜 吉野山」を観劇。


10月30日〜11月26日まで各地を廻る巡演のスタートの公演。この日は、11時開演と3時開演の2回公演あって、午後3時開演の部を見た。

場内掲示の上演時間は、「袖萩祭文」95分、幕間25分、「吉野山」58分 となっていたが、所見の回は、もう少し時間がかかり、3時過ぎに開演して、終演が6時13分頃だった。


公演プログラム(筋書)は、1200円で販売。

私が買ったプログラムは「袖萩祭文」の配役の一部に誤植があり、亀治郎丈の役が安倍宗任となっている箇所がある。


客席に入ると、花道がない。

浅草公会堂だから、てっきり、花道を設置するものと思っていたが、下手ソデ側の(いわゆる脇舞台の)短い花道を使用。

「袖萩祭文」は、昨年の、第五回亀治郎の会で上演した石川耕士補綴の「環宮明御殿の場」のうち、袖萩とお君の登場から上演するかたち。

主だった配役も、亀治郎の袖萩・貞任、段四郎の直方、竹三郎の浜夕、亀鶴の宗任、紫若の腰元(松ヶ枝)は、第五回亀治郎の会からそのまま。源義家が今回は市川門之助という布陣である。


袖萩の娘、子役のお君は、下田澪夏・谷口可純の交互出演。

下田澪夏さんは、昨年の亀治郎の会でもお君を演じ、これが絶品で、じっさいにも広く好評を博したようだ。今回の巡演のプログラムに掲載の舞台写真は下田澪夏さんのお君である。

下田澪夏さんの今年の歌舞伎出演を拾ってみると、1月国立劇場(禿)、3月歌舞伎座(六代君)、6月歌舞伎座(おいぬ某)、8月歌舞伎座(鶴千代)、そして今巡演のお君。子役としては大きな役が続いている。
10月は新橋演舞場に出ていた谷口可純さんも、ここ2年ほどは、歌舞伎の子役としてすっかりおなじみの名前だ。


さて、10月30日午後3時開演のお君役は、谷口可純さんが出演。

セリフの声にねばりがあって、それが聴く耳をぐんと惹きつける面白さがあった。せっかくのお君役なのに、かつらがずれちゃったのか、途中で黒衣ならぬ雪衣が直しに出て来たり、目に被って来るのを自分で戻したりしていたのが、ちょっとかわいそうだった。こわい叔父こと宗任の登場後、下手ソデにいちど引っ込んでからは大丈夫だったみたい。

下田澪夏ちゃんのお君のポイントが意志的な目だとすると、谷口可純ちゃんのお君のポイントは、ほっぺ、かな。


「袖萩祭文」のお君という役の魅力は、動きや目遣いに、母への想いが表れるところで、たとえば、三味線のばちを袖萩の手に渡したときの目の表情などは、見逃せない一瞬だ。


以前にも書いたような気がするが、ひとりの役者が袖萩と貞任の2役をするやり方だと、その役者を見せるにはいいとしても、お芝居としては袖萩が吹き替えになってからはいささか興が削がれるのは否めず。

昨夏の、第五回亀治郎の会では袖萩を堪能したが、今回はむしろ貞任のほうに醍醐味を感じた。(あるいは、大河ドラマの武将役ということが頭にあって、そういう見方をしてしまったのかも知れないが)


吉野山」の佐藤忠信(亀治郎)は本舞台からの出。

逸見藤太(坂東薪車)の登場で、客席がなごみ、また舞台も弾んだ。最後、狐忠信が蝶に戯れるうちにぶっ返るのは、私ははじめて見たが、巡演のホール公演での幕切れには相応しい演出と思った。