瑤泉院 忠臣蔵の首謀者・浅野阿久利

年が明けて、1月2日に放送される、恒例のテレビ東京新春ワイド時代劇は、「忠臣蔵 瑤泉院の陰謀」
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その原作である、湯川裕光「瑤泉院 忠臣蔵の首謀者・浅野阿久利」が、先頃、新潮文庫の新刊として出版された(857円+税)。

赤穂浪士の討ち入り成就の背後には、内匠頭の後室阿久利(瑤泉院)と大石内蔵助の主従の枠を超えた絆と信頼関係があり、阿久利は、浪士たちの快挙を、金銭的にも情報という意味でも支えつづけたとする。

親本に当たる単行本は、8年前に、「瑤泉院 三百年目の忠臣蔵」として新潮社から上梓されている。
文庫版のあとがきによれば、文庫化に際し、単行本から80ページ分が縮減されているという。『本文で五十ページ、あとがき、年表、登場人物索引などで三十ページ余りを割愛した』とのことで、文庫本には、登場人物索引はついていない。



浅野内匠頭への即日切腹という拙速な裁断には、桂昌院従一位を賜ろうとしていた叙位問題が絡んでいた。吉良上野介は内匠頭にいやがらせなどしなかったが、内匠頭が心因性の病を抱えていたことと、いくつかのボタンのかけちがいが禍して、刃傷事件が起こる。
吉良上野介の二女の名が、阿具利で、発音すると浅野内匠頭の妻と同じ名前だったとする着眼も興味深い。
子どもの出来ない阿久利が、ゆくゆくは内匠頭の側室にと考えていた喜世(のちの月光院)は、赤穂藩が取り潰しとなり、その後、甲府家に上がることになる。これに、柳沢吉保の側室である正親町町子と3人、女性のトライアングルが、討ち入りまでの情報戦に役割を果たす。

一般的な忠臣蔵の常識や解釈をくつがえす見識が多く散りばめられていて、著者の見解にそのまま頷くか否かは別にしても、忠臣蔵のおさらいとして、たっぷりの面白さ。
(内蔵助の二女のるりが、一時、進藤源四郎の養女に出されていた、というのは、はじめて知った)
物語の締めくくりたる「終章」での筆運びも上手く、長篇の最後に深い感動が湧く。



柳沢吉保の人物造形、浅野や浪士をめぐる幕閣の風向きの変化、浪士たちの預け先となった大名家の対応などのえがき方には、著者が民主党の政治家であり、その前は自民党シンクタンクにいたという経歴がよく反映されていて、なるほど政策に関わったことのあるひとの見方なのだなぁ、と思わせる。



湯川裕光という筆名は、劇団四季の観客には、おなじみ。「マンマ・ミーア!」の日本語台本の他、「ミュージカル 異国の丘」「ミュージカル 南十字星」の脚本にも名を連ねている。
また、松崎哲久名義では、文春新書の「劇団四季浅利慶太」が、よく知られているはずだ。